第6話

かっこつけすぎ!
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2021/07/05 10:58
揚塩 とーる
揚塩 とーる
今日は入学式だったらしいけど……
はは、さぼっちゃったな
さわやかな風がそよぐ夕暮れの中
ギターを携え子丘を散策する少年がひとり。


少年は少しだけ考える。
揚塩 とーる
揚塩 とーる
今折り返して高校に謝らないと……
でもオレ自由人だし
揚塩 とーる
揚塩 とーる
ふぅ着いた……
やっぱ山はいいなー
山頂で木陰に入り水分補給をしていると
どこからか信じられないくらい美しく、透明感のある歌声が聞こえてくる。
(なまえ)
あなた
〜いつかキミを信じ裏切られ
深く開いた傷を残すのを
恐れ迷い嘆き偽って
避けようとしている〜♪
声のする方へと近付いていくと、ひとり空を仰ぎながら目を瞑って歌うのは
何とも麗しい女のコだった。
(なまえ)
あなた
〜どうして濁った嘘で
薄められた世界で
風を斬り
純真なものだけを
拾っては磨けるの?〜♪
遠慮なく近づいて、近づきまくって
この顔が目を開けたらどれだけ美しいのだろう?
と少年は想像した。
(なまえ)
あなた
〜涙が滲む前に
心が枯れ尽くしてしまいそうな
孤独しか知らない〜♪
息がかかるくらいまで接近し
彼女からふわりと漂う甘い匂いを吸い込んだところで
女のコはぱちっと目を開けて固まった。
(なまえ)
あなた
きゃーーーーーー!!
揚塩 とーる
揚塩 とーる
あっ、気にしないで。
続けて、続けて!
(なまえ)
あなた
続けるわけないでしょ
盗み聞きみたいなことして!
てかその制服!
同じ高校じゃない!
(なまえ)
あなた
入学初日に言いたくはないけど
この高校
まじでうざい人ばっかりね
揚塩 とーる
揚塩 とーる
あれー?
続けないっていう割にはよく話すなぁ
揚塩 とーる
揚塩 とーる
それにしても綺麗な声だねっ
(なまえ)
あなた
はあぁ?!
何あなたかっこつけすぎ!
(なまえ)
あなた
そのツンツン頭もかっこいいと思ってやってるのかも知れないけど
全然かっこよくないんだからっ!
揚塩 とーる
揚塩 とーる
これは生まれつきだよ
(なまえ)
あなた
うそ!
絶対毎朝セットしてるんでしょーーー!
どんっ!


少年を突き飛ばして女のコはその場から逃げ出そうとした。
揚塩 とーる
揚塩 とーる
待って!
オレは揚塩あげしおとーる!
知っての通りキズク高校!
揚塩 とーる
揚塩 とーる
キミはどこのクラスなの?
(なまえ)
あなた
……教えないっ
べーっと舌を出すあなた。
揚塩 とーる
揚塩 とーる
へーそっかぁ、
でも問題なし!
ボク自分のクラスまだ知らねーし!
(なまえ)
あなた
ばっかじゃないの?!
女のコは去ってしまったが、
舌を出した時のあまりに可愛らしい姿は、揚塩の心に刻みつけられた。

揚塩 とーる
揚塩 とーる
いい出だしだな。
あんな可愛くて面白いコに会えるなんて
ふと地面がきらきら光っている気がしてしゃがみ込むと
落ちていたのは小さな蝶のチャームが付いたペンダントだった。
揚塩 とーる
揚塩 とーる
あのコの忘れ物かな?
揚塩はペンダントをポケットにしまった。

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