ガラガラ
…奥野くん。
……。
振り向いた奥野くんの不意をついて、
…パシャ。
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『…お、奥野くんっ…』
『し、写真撮らせてくれない…?』
『…は?』
『え、えっと…』
『い、一枚だけパシャっと…か、顔は映らなくてもいいからさ!彼女が彼氏を隠し撮りしました〜みたいな感じの一枚が欲しいの!』
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…初めて私がここで、話しかけたあの時…。
…意味分からないって顔しながらも、一枚だけの約束で写真撮らせてもらったんだっけ…。
奥野くんとの思い出を蘇らせながら、カメラロールをスライドして過去の写真を探る私。
これだ。その時の奥野くん。
奥の方に眠っていたその一枚を見て、
何故か、私の目に雫が溜まりだす。
名前を呼ばれて目の前の奥野くんに目をやると
優しい声でそう聞く奥野くん。
あぁ…。
私…好きなんだなぁ…。
目の前の彼を見て、全身でそう感じる自分がいた。
きっと奥野くんの体質も、もう治ってる。
今はその最後の確認としての、最後の克服作戦。
どんなにこれまでと同じような関係を保とうとしても、私たちの一つの接点が無くなったことに変わりはない。
今しか…
…え、?
…それ…って…
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『佐倉はさ…好きな人と…したいこととかってある…?』
『…お家デートも、夜中の長電話とか…』
『…え…?』
『…はっ!?』
『あ、いや!なんでもない…笑』
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好きな人としたいこと…。
少し黙り込んだ奥野くんは
スッ…
私の手を取り自分の頬に当て、
さらっと最後の克服作戦を終わらせ、そうつぶやいた。
ドクン…ドクン…
胸が何度も全身に鼓動を伝えてる。
グイッ
チュ…。
興奮して話し続ける私の口を止めたのは
奥野くんの口。
呆れ顔から、いつもの優しい顔をした奥野くんは
もう一度優しいキスをしてくれた_。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!