第36話

開始
196
2018/08/04 09:50
入院前と同じ環境
同じスケート靴に同じリンク場。
同じプログラム。同じ振り付け
変わらない。
…変わらない…はずだった
ここでターン
いける。
大丈夫。
次…
ここでジャ………ンプ………
ラユロ
ったぁ…
氷の上で転んだのは何年振りか
でも…ジャンプで転んだのは初めてだった
ラユロ
…大丈夫。もう一回
曲を再度流して
もう一度ジャンプ…
《もう一回》
《まだまだ》
《大丈夫》
《次》
《つ…ぎ…》
気付くと元々少なめだった体力がなくなっていた
練習時間もとっくに過ぎていて
ラユロ
…帰るか。
夢中だった
楽しかった。飛べる
滑れる。回れる
怪我はない。
どこか体調が悪いわけでもない
ならなぜ?
飛べない。なんで?
なんでなんでなんでなんでなんで
なんで…なんで!?
ラユロ
もういいや。帰ろ
スケート靴を脱いで
帰る準備をして
迎えの車を待つ間。
ふと思い出すのは飛べない感覚。
あれほど夢中だったのに
もうそんなのは二度とないのではと
思うと怖くて。アロタが離れていってしまいそうで
不安しか感じられなかった。怖かった
その時思い出したのは
抱きしめられた、もう二度と感じられない
悲しくって少し甘い感覚だった。

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