入院前と同じ環境
同じスケート靴に同じリンク場。
同じプログラム。同じ振り付け
変わらない。
…変わらない…はずだった
ここでターン
いける。
大丈夫。
次…
ここでジャ………ンプ………
氷の上で転んだのは何年振りか
でも…ジャンプで転んだのは初めてだった
曲を再度流して
もう一度ジャンプ…
《もう一回》
《まだまだ》
《大丈夫》
《次》
《つ…ぎ…》
気付くと元々少なめだった体力がなくなっていた
練習時間もとっくに過ぎていて
夢中だった
楽しかった。飛べる
滑れる。回れる
怪我はない。
どこか体調が悪いわけでもない
ならなぜ?
飛べない。なんで?
なんでなんでなんでなんでなんで
なんで…なんで!?
スケート靴を脱いで
帰る準備をして
迎えの車を待つ間。
ふと思い出すのは飛べない感覚。
あれほど夢中だったのに
もうそんなのは二度とないのではと
思うと怖くて。アロタが離れていってしまいそうで
不安しか感じられなかった。怖かった
その時思い出したのは
抱きしめられた、もう二度と感じられない
悲しくって少し甘い感覚だった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。