第15話

彼女の歌
665
2021/07/15 09:34
咲side
先生
さて、自己紹介をしましょうか。
小学校の入学式の日、先生はそう言った。
その頃の私は、自信過剰だった。
なんにでもハキハキしていて、成績も人当たりも良く、誰からも褒められ、叱られない。
他の子と違って完璧だと思っていたのだ。
小学生時代の咲
あなたの名字 咲です!
とくいな教科は体育、好きな食べ物はミカンです!
よろしくおねがいします!
今日も完璧にできた。そんな事を思いながら席につくと、隣の子がすっと立った。
音を感じさせない、不思議に美しい動作だった。
小学生時代のあなた
あなたの名字 あなたです。
好きなものはカラフルピーチという実況者さん、好きな食べ物は…カプチーノです。
よろしくおねがいします。
滑らかで、きれいで、安らぐ声。
他の人の目など気にせず、自分のペースで堂々とやるそのひとつ結びの少女。
不思議と当時の私は、それに惹きつけられた。
知りもしないのに、「カラフルピーチ、面白いよね」と話を振るくらいに。
彼女はふにゃっと笑って、「うん」と言い、好きなところをぽつぽつと並べてくれた。
翌日から私がカラフルピーチを猛勉強したのは、言うまでもない。そして見事にハマったわけである。
彼女と親友と言えるほどに仲良くなったある日の昼休み、無性に眠かった。
それはもう、とっても眠かった。でも、寝れない。彼女にそれを言ったら。
小学生時代のあなた
じゃあ、子守唄うたったげるよ
とくすくすしながら言った。
まさかそんな。と思った直後に、彼女の声に安らいでる自分もいた。
小学生時代の咲
…おねがい
あとから知ったことだが、彼女のような声は、1/fゆらぎ、というそうだ。

プリ小説オーディオドラマ