第6話

記憶の欠片が

─今日、不思議な夢を見たんだ────────。

その一言から、歯車は狂い始めてしまった。

火針「何処かの遊園地、とても綺麗な夕日、風景。窓に張り付く様な距離で、私が外を見ているんだ。
そしたら、横でクスクス、っと笑う声が聞こえて。其方を向くと其処には太宰が居た。私の夢に太宰が出てくる何て、何故だか凄く幸せな気分だ。」

自分の判然としない頭の中、只言葉を並べた。その瞬間


中也「・・・手前、其れは本気で云ってやがンのか」

彼の絶対零度の声が聞こえた。
其の瞬間、あの日の恐怖が再起する、嗚呼、失敗してしまった。
此処で嘘と云っても信じてくれる様な、否、信じても其の侭食い殺される気がするのだ。
ジリジリと歩み寄ってくる彼から逃げる様に後退りをする。太宰でも佳い、寧ろ、太宰が助けに来て呉れないか、こんな場面でも思い出すのは太宰だったのだ。

中也「逃げんな。」

掴まれた腕は妙に優しく、其れが又怖く感じた。彼はマフィアだ、下手すれば殺される、何て、考えてしまう。拾ってくれた人物、然れど、容易に、彼は、自分迄をも殺せてしまう。
殺さないで、何て云う命乞いをしようか、さすれば彼は助けてくれる?・・・助ける筈がないだろう。

火針「御免、なさっ・・・」

訳も分からず謝ると、顎を強制的に上を向かされ、口迄塞がれる始末。
長い口付けに、酸素が足りなくって、口を開けたいが、そんな事をすれば己の口内で、彼の舌が暴れてしまう様な気がする。
もう、此の侭であれば窒息して死ねるのでは無かろうか?其れなら、其れは其れで、厭に感じた。
酸素を求めて口を開けたって彼が掻き乱すのだ。意味が無い。
・・・思えば、自分は何故、此の男に唇を奪われているのだろうか、其れすら分からなくなって、もう胸が段々痛くなる。
涙まで溢れて来て、もう、駄目だ。と、とうとう、口を開いた。















中也「・・・っは、強情な女」

口から、唾液が流れる。
其の妙に懐かしく、そして、凄く不快感を感じた。思い切り鋭い目で彼を睨むと、彼は目を細め、自分に云った。

中也「手前は俺のモンだ、他の奴でも、ましてや太宰のモノでもねぇ、手前は一生、否、死ぬ迄俺のモンだ」

彼が、どうして此処まで自分を手中に起きたがるのか、理解できた気がする。

火針「・・・あんた、私に惚れてンの?」

何故か口許が弧を描く。
嗚呼、凄く、苛々してしまう

中也「・・・惚れたのは手前だったがな。」

火針「昔の私、私には二ヶ月前からの記憶が無い」

当然、前の自分を知りたくなった。

火針「教えてくれ、昔の私とやらをな」


己の眼球から、ハイライトが消えて感覚がした。