火針「なあ、太宰。若し私が君に心中しようって云ったらどうする?」
・・・唐突な質問の投げ掛けだと、自分でも分かっていた。然し、ずっと前から、気になっていたのだ。
自分が、太宰と、心中したいと云ったら、彼は、何と云うのだろうか・・・、と。
太宰「其れは・・・」
何やら驚いた様な表情で此方を見つめる。
何故彼がこんなに動揺しているのか、私には分からなかった。然し、その瞬間
中也「火針!!」
珍しく、大きな声を出して、私の腕を凄い力で握っていた。
火針「っ、中、中也…?」
その表情は怒りに満ちていて、私を殺そうとする勢いだった。別に、死ぬのには抵抗は無い。只、只。
・・・・・・・・・彼に手をかけられるのは生きる事よりも辛く、苦く、嫌に感じた。
太宰「・・・中也。」
中也「煩ェ、糞太宰は黙っとけ」
今すぐ、此の手を離して近くの道路に飛び出たかった。そしたら痛くても死ねるし、彼を見なくても佳いと感じたからだった。つまりは、此処から逃げ出したいのだ。此の最悪と感じる空気間から、此の状況から。
火針「離、せ、・・・」
死にも感じなかった、此の恐怖。
嗚呼、怖い。人間の恐ろしさよりも酷く、彼の方が恐ろしい、そう感じる自分も、その自分を殴りたくなる自分もいる。
中也「・・・帰るぞ」
その言葉に、否、指示に。
従うと何か悪い事が起きる様な気がする・・・そう感じると共に、手を振りほどいた。
火針「・・・っ、帰りたくない・・・、」
振り絞る様に出たのが、其れだった。
彼を睨む様に見た。
・・・けれど、先程の怒りの表情は無く、只、何か、辛そうな表情で、何かに、見放された、悲しい、表情だった。
其れと、同時に其の表情をさせたのは己だとも、何の訳も無く、理解できた。
太宰「・・・こんな所で立ち話も何だし、今日は解散するかい?火針ちゃん。」
此の状況で笑えるのは、屹度、彼だけだと思う、などと考え乍、その“解散”に、応じる他無いのだ、とも考えた。
火針「・・・分かった」
渋々では有るが、彼に連れ帰られる事にした。
嗚呼、どうしてこんな事になってしまったのだろうか。
彼が怒っている理由も何も、分からない。
己はこんなにも鈍感だっただろうか、其れすら私にはもう分からない。
中也「・・・火針。」
火針「っ・・・、あ、ど、どうした?」
中也「・・・先刻は、悪かった」
・・・すんなりと、彼の口から零れた。
別に、怒ってなどいないのに、少し、否、凄く?愛らしく、思えた。
然し、其の言葉には続きがあった
中也「・・・死にてェ何て、云うんじゃ無ェよ」
火針「・・・は?」
中也「手前は忘れてるだろうがよ、俺は全部覚えてンだ、死んだら許さ無ェからな」
・・・此の男は何を云っているんだ?全く訳が分からない。私が、忘れている?何を。
火針「頭の螺子でもぶっ飛んだか?」
何て、冗談半分に云ってみる。
中也「・・・有る意味、そうかもな」
・・・珍しい。此の男が莫迦にした言葉に反論しない何て、明日は槍でも降るのか。
冗談にも、ならないな
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。