真っ暗。
暗闇の中、月明かりも届かないような木下で。
ずっと、ずっと何かを探す。
何度も何度も、何が隠されているのかも分からないのに。
ただひたすら走ったり、草木を分けたり。
懐中電灯も遂には充電がなくなってしまった。
スマホのライト機能を使おうとしたけれど、家に帰ってきてから充電していないスマホは、もう10%をきっていた。
父の言葉が脳裏に浮かんで、視界がぼやけた。
かろうじて見えていた草がぼやける。
その場にへたりと座り込んで頭を回す。
最近感じていた。
お父さん、あんなに大きな家を私にあげて。
お父さん、あんなに沢山のお金を私にあげて。
お父さん、なんで私も東京に連れていかなかったの。
大声を上げて泣きそうになってしまった口を抑えてフラフラと立ち上がる。
大好きなんだ、私のことが。
好きじゃなかったら手紙なんて毎日書かない。
好きじゃなきゃ、好きじゃなきゃ大好きだなんて言わない。
そうだ、私は愛されてる。
愛されてるんだよ。
そうして立ち上がった足を撫でて目を擦る。
明日は目が腫れる。
でも大丈夫だ。
土曜日だしー
大丈夫だしー
と、またがさりと草木を分けてその中に入った。
ちょうど上に木がなくなって、月明かりで明るく照らされた広間のようなところ。
急に明るくなった視界に、目を細めて前へ進んだ。
なに、ここ。
みれば、そこに鳥居がある。
石でできた、随分と古そうな鳥居。
下の石畳を眺め、それが続く場所へと目を向ける。
息が止まるかと思った。
呼吸が少し荒くなって、それが少しの間続く。
手を握りしめてそれに近づくと、なんだか不思議と呼吸も緩くなっていった。
狐だった。
変な鳴き声の、あの狐だった。
あの時どこかへ行ってしまった、あの狐だった。
ちょっとだけ、頬が緩んだ。
ちょっとだけ、嬉しかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。