学校から家に帰ってきて部屋に戻ろうとした時、私は話しかけられた
差し出されたその紙袋には、チーズケーキが入っていた
私はそう言って階段を登ろうとした、が
手首を掴んでくるその人を私は振り払った
家族だとか、友達だとか、そんなの何かの情で成り立っているとか言うけど私はそう思わない
もしそうだったら私はこんな思いなんてしていない
家族も友人も全部言葉遊び
そこに情なんてない
私はスマホと財布を持って家を出た
さっきまで快晴だった空はどんよりと厚い雲がおおっている
今にも降り出してしまいそうな天候のなか、私は街に出た
生きるのが下手
周りの顔色を、空気を読むのが
周りに合わせるのが
愛想を良くするのが
ぽつぽつと少し降り出してきた雨は、私の制服を濡らしていく
紺色のブレザーはだんだん黒く重くなっていき、青色のスカートもだんだんと色が濃くなっていく
スクランブル交差点には、色とりどりの傘が散らばっている
視線が私に突き刺さる
「 あの子傘さしてないの可哀想笑笑」
「傘入れてあげろよお前ー笑笑」
そんな声がきこえる
うるさい
うるさいなぁ
「 そんな愛想悪いやついて欲しくないんだけど! 」
体にうち続けられていた冷たい雨は、無くなって
私の体を包み込んだ透明なビニール傘
自分が濡れていることも構わずに傘を差し出してきた男は
ニコッとわらい、私を転校生君だと言った
𝕟𝕖𝕩𝕥➯➱➩
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。