第3話

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2021/05/16 12:27




数分後、始業を知らせる鐘が鳴った。
「起立、礼」
日直の号令とともに、生徒が席に座った。
ぼくも周りと合わせるように席に着く。
先生が、教団の前に立ち、ぼくたちに穏やかな、それでも真剣な表情で口を開いた。
「えっと、今日は古典のテストをします。一番前の席の人は取りに来てください」
先生の指示に従い、生徒らがプリントを取りに行く。
その時だ、先生がわずかに表情をゆがめた。
「ん……っ」
「先生?」
プリントを受け取ろうとしている生徒が首をひねる。
先生はハッとしたような顔になって、慌てて笑顔を作った。
「あ、……なんでもないわ。はい、プリント」
「はい」
何事もなかったように渡していく先生。
けれど、その表情はおかしい。

配り終えたあと、先生が声をあげた。
「はい。じゃあ制限時間は30分。よーいはじめ」
「先生」
「浅野くん、どうしたの?」
じっとこちらを見る視線。
その目が充血しているのを、ぼくは見逃さない。
「……なんでもありません。すみません」
「そう……?」
「はい」
「じゃあ……テストを始めます」

コチコチと時計の針が動く音と、鉛筆の擦れる音が響く。
ぼくも、机に向かい、目の前の問題をなんなく解いていった。
けれど、気になって仕方がなかった。
先生の反応が先ほどからおかしい。教団の前で、なんとも落ち着かない様子の先生は、やたらともじもじしている。
これは、もう完全に薬が効いている。そう確信した。
さきほど教諭室にはいる前、栄養ドリンクに薬を入れておいた。だから、先生に渡すとき、事前に開けていたと悟られないように、キャップを外した。

先生は今、何を思っているだろうか。
身体が敏感になって、どうしようもない?

静かな部屋の中、ぼくは手を挙げた。
すぐに先生が気づく。
「浅野くん?」
「消しゴム、落としました」
ぼくは視線を下げ、意図的に落とした消しゴムを見た。
「あ、今取ってあげるわ」
先生が近づいてきて、ぼくの席の前方に転がった消しゴムを拾い上げる。
そして、消しゴムの持つ手が伸びてきた。机の上に置こうとする手に、ぼくはわざと自分の指先を触れさせた。
ほんの一瞬、指先が先生の手の甲にあたった。
それだけなのにーー。
「ァ……っ」
なんて甘い声を出すんだというくらいいやらしい声を上げた。
「先生? どうかしました?」
「あ、いえ、なんでもないわ。ごめんなさいね」
慌てて自分の手を引き戻すように胸の前に持ってくると、誤魔化すように笑った。
その顔が、紅潮していることをぼくは完全にわかっていた。
くるりと向きを変えて、教団のほうに戻っていく先生。

あぁ、せっかくの機会なんだから、いいよね?

「先生」
「浅野くん、まだなにか……」
「お腹痛いんです。さっきから我慢してて……歩けそうにないです」
「まぁ、そうなの。……じゃあ私といっしょに行きましょう」
その言葉に、ぼくは口元を緩めた。
「ありがとう、ございます」

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