第123話

揺さぶられる.°
18,945
2020/11/03 10:12
"線香花火"……って、言ったっけな。



線香……??


蚊取り線香の、線香??




八百万「百々さん……?どうかされましたか?」


あなた「あ、ううん!ありがとう〜っ」





花火を受け取って、さてどっちに火をつけるのか考え込んだ。


まぁ、轟くんが火を付けに来てくれるだろうし待ってよう。




緑谷「あなた」


あなた「あ、いずくん……」




控えめに笑ういずくんが隣に立って、花火に盛り上がる皆を見つめた。




緑谷「…………」


あなた「………………」





……2人きりって、ちょっと気まずい。





緑谷「あの時___________」


あなた「、え?」


緑谷「あの時、止めていれば良かったって……ずっと、後悔してるんだ」


あなた「……」





あの日。


オール・フォー・ワンの所に、私が飛び込んで行った時。



いずくんも爆豪くんも、確かに止めようとしてくれた。


ただ私の中で、もう決意が固まっていて……。





あなた「いずくんが責任感じることない。私が勝手にやって、勝手にやられただけだよ」


緑谷「……自分が、死ぬって分かってて飛び込んで行ったんでしょ?」


あなた「……」


緑谷「…………もう、最後みたいな言い方して去って行って……。「ヒーローになってね」なんて、なんで……キミは、僕達とヒーローになりたいって言ったじゃないか」


あなた「いずくん……」




いずくんの声は確かに震えていて、ずっと負い目を感じていてのではないかと考えさせられた。


心配、たくさんかけたんだろうな。




あなた「…………」




それでも、それでも私は……。


ここで"いずくん達とヒーローになるよ"って、言えなかった。



"嘘"は、吐きたくないから。





ろうそくが回ってきて、とりあえず2人で付けた。


いずくんがやり方を教えてくれて、パチパチと小さく火花が飛び散る。




麗日「梅雨ちゃんは願い事何にするっ?」


蛙吸「そうねぇ……」


あなた「"願い事"……?」




向こうのほうでお茶子ちゃん達が話しているのが聞こえてきて首を傾げると、「あ、あれはね」といずくん。





緑谷「線香花火のこの火の塊が、最後まで落っこちずに止まっていたら願い事が叶う っていうおまじないみたいなのがあるんだ」


あなた「へぇ……」




手元に目を戻すと、小さな火の塊はプルプルと震えていて、今にも落ちそうだった。





あなた「あは、私の願いは叶いそうにないやっ」


緑谷「そこから持ち直すことも結構あるんだよ。何か願い事、ないの?」





願い事かぁ……。


……うん、そうだなぁ。強いて言うなら。




あなた「"守りたいもの、ちゃんと全部守れること"……かな」


緑谷「……それって、僕たちのこと?」


あなた「、。…………皆だよ。私がこれから関わる、皆」


緑谷「それなら僕は、"あなたがあなた自身を大切にしますように"って願う」


あなた「え?」





いずくんの目は真剣で、敵わないなぁ、なんて思っちゃう。





ジュッ


あなた「___________あ、落ちちゃった」




そうこうしているうちに私の線香花火は途中で落ちてしまって、いずくんの花火はもう少し続いていた。




緑谷「確か花火の角度を斜めにして火の近くを持つと ぶつぶつ……


あなた「ふ、何解析してるのっ」




思わず笑ってしまって、いずくんの背後に倒れ込む峰田くんを防ぐことができなかった。





峰田「うわぁ!!」


緑谷「!!!?」




ドガッ!!




ジュゥ……




緑谷「あ……消えちゃっ、た」


峰田「いやぁわりぃわりぃ!バランスとれなかったぜ〜っ」


芦戸「峰田ぁぁぁぁぁ!!」


葉隠「許すまじ!許すまじ峰田くん!!」




何やら猛烈に怒られている峰田くん。


いずくんは結構落ち込んでるみたいで、しょぼんと肩を落としている。




あなた「……ありがとう。いずくん」


緑谷「……え?」


あなた「……大切にしてみるね。自分のこと。今よりもっと」


緑谷「…………うん!!」





笑いかけると、安心したように顔を綻ばせた。





八百万「緑谷さん。線香花火もう一つ余っているので、是非使ってください」


緑谷「え、いいの……?」




さっきの始終を見ていた八百万さんが持ってきてくれて、受け取ったいずくんは何やら考え込むと私にそれを手渡した。





緑谷「あなたにやってほしいな」


あなた「え……いいの?何か他に、願い事とかあるでしょ?」


緑谷「うん……"あなたが本当に願いたいこと"願って欲しい」


あなた「……!」





照れながらもそう言ってくれたいずくんは、「邪魔しないように見とくね」と数歩後ろに下がった。



いずくん……。





火をつけてもらおうと轟くんを探すけど、見当たらない。


ろうそくは向こうで使ってるし、どうしようかな……。




あなた「あ、爆豪くん。轟くん見てない?」


爆豪「……あ"?見てねェわ」


あなた「そっかぁ……。火、付けてもらおうと思ったんだけどな」


爆豪「チッ…………てめェ本当に半分野郎好きだな」


あなた「え???なんでそうなるの、そんな事言ってないよ?轟くんしか火扱える人いないし……って、そういえば爆豪くんできたりするの?」


爆豪「……んで俺がてめェの花火つけなきゃならねぇんだよ」


あなた「じゃあいいよ轟くん探します」


爆豪「ッ、……付けりゃいいんだろオラ!!」




素直じゃないなぁ。


花火の点火部分を向けると、じぃっとそれを凝視した。




手をかざして、カッと目を開く。





ボンッッ!!!


バチバチバチッ!!




あなた「!!?」




爆発と同時に、火薬に一気に火がついたからか一瞬大きく火花が咲いて、すぐに消えてしまった。





芦戸「う……嘘でしょ、爆豪……」


葉隠「最後の1本だったのにぃぃぃ!」


芦戸「できないなら初めから言いなよ!!あなたの願い事台無しじゃんか!」






爆豪𝓈𝒾𝒹𝑒.°




腹が立った。


「轟くん」「轟くん」 そればっか。




結局コイツの頭ん中には半分野郎しかいなくて、俺はオマケなんだろ。




誕生日は祝うべきじゃねぇと思った。



愛する奴の命日に祝われる辛さは俺には分からねぇから。





でも結局、轟が本当のことを伝えてアイツは喜んだ。




俺が言う言葉でコイツが喜んだこと、今までにあったか?



花火を持って、表情を緩ませて楽しそうに話してるアイツらをみると無性にムシャクシャする。





今すぐこの場から立ち去りたい。




帰りたい。





見たくねぇ。






あなた『じゃあいいよ。轟くん探します』






行くなや。


俺に見せねぇ面、半分野郎に見せんな。





自分で、火をつけられるとは思ってねかった。



そもそもの性質が違う。




でもコイツが、半分野郎の所にいくのを何がなんでも止めないとって訳分かんねぇ焦燥に駆られた。






芦戸「あなたの願い事台無しじゃんか!」


あなた「……」





辺りが暗くて、コイツの顔が見えねぇ。



でも多分、笑って許す。
 


本当は落ち込んで、怒っていても。




コイツは俺に本心を向けたりなんかしねぇ。




半分野郎にしか、コイツは本当の笑顔を向けねぇから。





ムカつく。





ただ、なんで俺にはうまく火を付けらんねぇのか。





なんで上手くできねぇのか。







俺は、本当は___________、







あなた「___________プッ、」



爆豪「……?」



あなた「ぷっ……ははははははは!!」




爆豪「……!?」




芦戸「え、あなた……?」






お腹を抱えて、目に涙を浮かべながら大笑いを始めたあなたに視線が集まる。



向こうにいる轟も、こっちを見ていた。





あなた「ぷっ、くく……ボンッ!!って!ボンッ!!ってなった!!ぷっはははは!!!なんで爆発させてんのっ、〜ックク……、しんど……っ、!」


爆豪「…………、」






なんでコイツ、笑って……。






芦戸「え、あなた……もっと怒って良いんだよ!?気遣わずに_______、」


あなた「ククッ……っ、へ?……「気遣う」って……あはっ、私が?爆豪くんに??ないない絶対ない!」





黒目があなたに駆け寄ると、あなたは再度大きく笑いながら手を横に振った。


そして、こっちを振り返ってニシシと笑う。







あなた「だって爆豪くんだもんっ!」



爆豪「_____________っ、」








……んで、コイツは。



いっつもいっつも俺を……俺の気持ちを、




















揺さぶるんだ……。

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