緑谷𝓈𝒾𝒹𝑒.°
体育祭、当日。
飯田「皆!準備はできてるか、もうじき入場だ!!」
飯田くんが控え室に入ってきて、空気がピリッと変わった。
あれ……?
そういえば、百々さんは?
轟「緑谷」
緑谷「轟くん……!なに?」
近づいてきた轟くんが、いつものような冷静な目で僕を見つめる。
轟「客観的に見ても、実力は俺の方が上だと思う」
緑谷「え」
……それは、分かってるけど。
轟「けどお前、オールマイトに目ぇかけられてるよな。別にそこ詮索するつもりはねぇが……お前には勝つぞ」
緑谷「……!!」
轟くん……。
切島くんが声をかけると、轟くんは振り払って踵を返した。
緑谷「轟くんが……何を思って僕に勝つって言ってんのかは分かんないけど。そりゃ、君の方が上だよ。実力なんて、大半の人に敵わないと思う。客観的に見ても……」
それは僕が1番、分かってる。
切島「緑谷も、そーゆーネガティブな事言わない方が___」
でも、
緑谷「でも……、でも、皆。他の科の人も、本気でトップを狙ってるんだ。____遅れを取るわけにはいかないんだ。僕も本気で取りにいく」
真っ直ぐ見据えた僕に、轟くんは低い声で「あぁ」と返事をした。
ガチャッ
ゲシッ
あなた「あでっ、」
扉が開いて、入ってきたのは百々さんだった。
後ろの相澤先生に背中を蹴られて、押し込まれた形で入ってきた。
飯田「百々くん……!?君、一体何して____」
相澤「委員長、あとは任せた。俺の手には終えねぇ」
飯田「い、一体何が……」
切島「、あなた……その、手に持ってるのって」
百々さんの両手には、いっぱいのレジ袋が提げられていていい匂いを漂わせている。
まさか……屋台の?
あなた「う……朝ごはん食べてないし、それに屋台って初めて見たんだもん……」
緑谷「初めてって……、」
ぷくっと頬を膨らませた百々さんに、飯田くんが小言を並べている。
芦戸「あなたって、しっかりしてるけど世間知らずなとこあるよね〜」
芦戸さんの言葉に空気が緩んで、怒られながらも焼きそばを頬張る百々さんに轟くんが近寄る。
轟「現時点で_________」
あなた「?」
轟「俺が倒したいのは1番にお前だ」
「「「「!!!?」」」」
上鳴「みっ、緑谷に続いてあなたにまで!?」
あなた「…………私が1番に倒したいのは、ヴィランだよ」
ボソッと呟いたその言葉に、僕は勿論皆がハッとした。
そして……。
あなた「だからこそ、今私が倒さないといけないのは、轟くん、緑谷くん……お茶子ちゃん、皆。ここにいる、皆」
芦戸「……あなた」
百々さんはスクっと立ち上がると、ゴクりと焼きそばを飲み込んで僕たちを見据えた。
あなた「私、本気で勝ちを狙いにいく。ここで皆と、変わらず笑い合えるように。守るために、今日私は皆を倒す。個人戦の何の競技においても、私は今日、初めて本気を出すから」
本気……って、。
今まで、本気じゃなかったみたいな言い方。
ピリついたクラス中の雰囲気と、続けて放った言葉に多分何人かは気がついた。
百々さんは、僕たちのためにこうして話しているんだと。
あなた「だから、病み上がりの私に気を遣う必要なんてない。そんなことしたら足元すくってすぐにゲームオーバーにさせるから、そのつもりでね」
いつも笑顔で、爛漫としてて、それでいてどこか穏やかで、優しい百々さん。
彼女の笑顔の裏には、何か大きな大物が隠されているのではないかと僕はずっと思っている。
僕と類似している個性を持ち、僕なんかよりもずっと使いこなしていて。
何度かしか見てないけど、百々さんの実力がずば抜けていることは分かる。
僕は今日、彼女に少しでも近づけるだろうか。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。