ః..
緑谷𝓈𝒾𝒹𝑒.°
あなた「私を研究所から逃がそうとした樹はノベルに見つかって、アギによって殺された……」
緑谷「……!」
「殺された」……そうか、だからあなたはあのヴィランに固執して_______。
あなた「今、私の中にはその"失われた個性"が確かにある。それを使うことが、正しい事なのか、それともずっと閉じ込めておかないといけないのか、分からないけど……」
そこまで話すと、あなたは僕たちをゆっくりと見回して、息を吸った。
あなた「ノベルは、この個性を使って本物のヒーローを作ろうとしてたんじゃない。ずっと、支配しようとしてきたの。この世の全てを自分のものにするためだけに、アイツは私を産ませて、そして私の両親を事故に見せかけて殺した」
淡々と述べているようで、その言葉一つ一つの重みに僕はゴクりと喉を動かした。
あなたが何かを抱えているのは勿論知っていたし、それを知れたらいいなと思っていたけど。
あなた「ノベルは……これから先私とこの個性を使ってもう一度計画を進めようとしている。その中で……邪魔なの。この雄英が」
邪魔……?
あなた「有望なヒーローの玉子……この先脅威になる存在を、今のうちに消しておかないといけないって。だから、アギを使って何度も皆を襲わせた。……私は研究所でその資料を見たことがあったから、それを頼りにここに辿り着いて______」
そして、今度は僕を見て。
あなた「オールマイトと出会って、雄英の生徒として皆を守る機会をもらった」
オールマイト……。
あ、だから、あなたの転入試験はオールマイトとの戦闘だったのか。
あなた「これが……私の話せる全部」
芦戸「……」
麗日「……」
緑谷「…………」
話終わったあなたに、誰も言葉が出せなかった。
あまりに遠い世界の話のようで、そしてあまりに辛い過去で。
黙り込んだ僕たちに、あなたは再度頭を下げた。
あなた「______ごめんなさい。これは……"私の言える"全部であって、"私の言いたい"全部ではない」
緑谷「……あなた、」
声が震えている。
下げた頭から、肩も震えてあなたの葛藤を表していた。
あなた「ごめんなさい……でも、言ってしまえば私はもうここには居られないの。皆を守れないの……だから、今話した全部で、もし私の事をそれでも信じてくれるのなら……また、」
ゆっくりと頭を上げて、潤んだ瞳で僕たちを見つめる。
あなた「私をこのクラスに_____入れて欲しい」
しっかりとした声で、でも確かに震えていて切なくて。
僕は思わず、立ち上がっていた。
緑谷「当たり前じゃないか……!ここにいる誰も、君の事をもう疑ってなんかない!!君に生きて欲しいって……戻ってきて欲しいって、本気で……っ、だから……〜っ、そんな、悲しい顔で言わないで……」
あなた「いず、くん……」
芦戸「そうだよ……私ら皆あなたを信じたいって話したばっかりなの!お願いだから戻ってきて……あなたが居ないと、私……私っ、」
芦戸さんが無抵抗に涙をボロボロと流しながら、立ち上がってあなたに駆け寄った。
縋り付くように手を握って懇願するその姿に、麗日さん達も同じようにまた駆け寄っていく。
あなた「なっ……私、嘘、吐くかもしれないんだよ……?これから先、皆に偽ったまま、当たり前みたいにこのクラスに……いちゃいけないよ……っ、」
心の底から、このクラスに戻ってきたいって思ってる事。
僕たちに嘘を吐きたくないって苦しんでる事。
僕たちにとって、あなたはとても大切な存在だって事。
皆知っていて、皆がそれを信じているから。
緑谷「あなた……僕たちと、ここで____ヒーローになろう」
僕の言葉に、皆が大きく頷いて。
あなたの目からは大粒の涙が止めどなく溢れ出た。
相澤「_______百々」
あなた「……?」
後ろで見守っていた相澤先生は、ゆっくりと壁から背を離してあなたを見据えた。
相澤「おめでとう。合格だ」
あなた「……〜っ、ぅ……ぅあ……っ、ひぐっ、うぅ……」
始めに相澤先生の言った、「転入試験だ」の意味がやっと分かって、それと同時に思いっきり泣き出したあなたの姿に、僕も目に涙が浮かんだ。
相澤「あ"ー……ごほっ。転校生の」
そこまで言うと、相澤先生は泣きじゃくるあなたをじっと見る。
あなたはようやく涙を拭って、その崩れた顔を必死にキュッと戻して言った。
あなた「百々あなたです!これから皆と……ヒーローになるために、頑張っていくので……〜っ、宜しくお願いします!」
あの日、転校してきた日と同じように元気な声を僕たちに届けた。
________おかえり。あなた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!