あなた 𝓈𝒾𝒹𝑒.°
エンデヴァー「前例通りなら保須に再びヒーロー殺しが現れる。暫し保須に出張し活動する。……すぐ保須市に連絡しろ!」
「「はいっ!」」
保須市……。
ヒーロー殺し……?
…………ステイン。
轟「着替えるぞ」
あなた「_________うん」
足早に部屋に戻って荷物をまとめ、コスチュームに着替えた。
保須市について3人で市内を探索し、その日はもう遅いし目立った異常も無かったのでホテルに戻る事になった。
エンデヴァー「鍵だ。明日は5時にフロントに降りてこい」
轟「……?鍵、1つしかないが」
エンデヴァー「ああ」
轟「?もう1つはどこに____」
エンデヴァー「ここだ」
首を傾げる轟くんに、エンデヴァーは自身の持っていた鍵を掲げた。
轟くんがそれを受け取ろうとすると、ひょいと退ける。
轟「……???」
エンデヴァー「?何をしている」
……え、こんな噛み合わないの?この2人。
轟くんも鈍感だなぁ。
エンデヴァー……轟くんと同じ部屋で寝たいんですね⭐︎
もうっ、素直になればいいのn_____。
エンデヴァー「その鍵はお前達2人の部屋のものだ」
あなた「_________うん??」
轟「(そういう事か……。くそ親父め)なんでもない百々、気にすんな。お前この部屋使え」
言われて手渡されて、轟くんはエンデヴァーと向かい合う。
轟「俺はコイツの部屋で寝る」
エンデヴァー「……何を言っているんだ焦凍。もう荷物は通してある。早く寝なさい」
威圧感のある目で睨むと、エンデヴァーは有無を言わさずエレベーターに向かっていく。
乗り込む直前にこちらに振り向き、
エンデヴァー「ああそれから……職場体験において担当プロヒーローの命に従わねば、学校にそれ相応の報告がいくからな」
ウィーーーン……
扉がゆっくりと閉まった。
あなた「………………やっぱ、早とちりみたいだねっ」
轟「はぁ……笑い事じゃねぇだろ」
なんだかんだで学校に連絡されるのは嫌だったようで(相澤先生から私を任されている分下手に抵抗できないみたい)私達2人はホテルの一室に足を踏み入れた。
轟「_________、〜っ……ありえねぇだろ」
あなた「ぷっ……」
部屋に入ってまず1番に目に入ったのは、突き当たりにあるベッドだった。
……ダブルベッド。
あなた「エンデヴァー……私と轟くんの事なんだと思ってんの!めっちゃ面白いねぇ!!」
轟「笑ってられるのも今のうちだ……。はぁ、」
頭を抱えて心底困っている。
あなた「まぁ、なんなら私ソファーでいいs__、ソファー、ないね」
轟「(抜かりなしかあのクソ親父……)俺が床で寝る」
あなた「えっ、ダメだよ!なら私が床!!」
流石に申し訳ない。
私は普段から床で寝てるようなものだから構わないけど……。
両者譲らないので、お風呂を済ませてから腕相撲で決めようという事になった。
とりあえず先にお風呂に行かせてもらい、ゆっくりと湯船を堪能した。
轟くんがお風呂に行っている間、明日持ち歩く荷物をまとめる。
あなた「財布と……、ん?財布、いる……?飲み物……、いる?」
……手ぶらでいいや。
そういえば筋トレをしていない事に気がついて、1度眠気覚ましがてら体を伸ばした。
よし、腕立てから……!
ノルマを次々にクリアして、最後に逆立ちで部屋をくるくる回る。
あなた「ほっ…………と!」
轟くんがお風呂のアコーディオンドアを開ける音がしたのでそろそろ止めにしようと体を戻した。
ドサッ
瞬間、足が引っかかってベッドに置いていた鞄が落ちる。
さっきまで荷造りをしていたので蓋が開いていて、中身が出てしまった。
あなた「あーぁ…………」
何やってるんだろ……。
いや、流石の私も、この状況に多少は動揺している。
エンデヴァー……息子思いなのは分かったから加減を知って欲しいよ……。
拾い上げながら、家から持ち出してきた写真立て手を止めた。
あなた「…………………………もうすぐだよ」
自分のするべき事、使命を再確認してから、ゆっくりと鞄にしまう。
あなた「_____ What…… doesn’t kill you makes you stronger 、♪〜Stand a little taller……♪Doesn’t mean I’m lonely when I’m alone……〜♬What doesn’t k___……」
轟「……なんの歌だ?」
水を含んで頭より重めの髪をタオルで拭きながら、轟くんが部屋に入ってきた。
あなた「……うっわ、音痴なのに聞かれちゃったぁ!!」
轟「別に音痴じゃねぇだろ」
精一杯の照れ隠しにいつも通り冷静に返されて、「あ、うん」と私もトーンを落とす。
轟「……洋楽、好きなのか」
あなた「…………ううん、この歌しか知らない」
小さい頃からずっと、ずっと聴いてきた。
この歌だけが、私が唯一知っている"外の世界"の表現。
轟「じゃあ……その歌は好きなんだろ」
あなた「……ふふ、う〜ん……」
全部否定するみたいになるけど、嘘はつきたくない。
あなた「……大嫌いな歌」
薄く笑いながらそう言うと、轟くんはピタッと髪を乾かす動作を止めて私を見やる。
あなた「…………この歌を聴く度に、安らいだ。唯一の、救いだった。……でも、歌ってみたら凄く……苦しかったんだ」
轟「…………」
あなた「ごめんっ、何言ってんだって思うよね!」
私は、轟くんに全てを話すことができない。
なのにこんな前後不明の自分語り始めたって困らせるだけだ。
あなた「なんっでもない!それよりほらっ、腕相撲しよ!」
丸テーブルを運ぼうと背を向けると、その背中に轟くんの落ち着いた透き通るような声が投げかけられた。
轟「なら……お前の好きな物ってなんなんだ?」
あなた「…………え?」
思ってもみなかった言葉に振り返ると、その真っ直ぐな目に俯きたくなった。
何もかもを隠してばかりの私に、こんなにも付き合ってくれる轟くんは……なんでいい人なんだろうか。
申し訳なくて言葉が出なかった私に、轟くんは続けた。
轟「秘密を話せとは言わねぇから……お前の事、もっと知りてぇんだ」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!