第79話

物間くんは素直じゃない.°
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2020/07/30 08:45
あなた「お待たせいたしました。カフェモカと柑橘ケーキです!」



スーパーのアルバイトとはまた別の、カフェの接客アルバイト。

林間合宿までの夏休みの間は、時給もいいのでこっちで働かせてもらっている。




店長「3番テーブル案内お願いね〜」


あなた「はいっ」


 
忙しいのは働いている何よりの証拠。


ここで皆と過ごすために、奨学金は入るにしてもお金を貯めておかないと……これから何があるか分からないし。




あなた「いらっしゃいませ〜っ……って、一佳じゃん!」


拳藤「お〜あなた!なに、ここでもバイトしてんだな!」


あなた「夏休みの間だけねっ。1人?」


拳藤「や、勉強教える約束でさ。……ごめん、えっと」




そこまで話して少し申し訳なさそうに目を逸らすので、なんとなく察しがついた。




あなた「もしかして物間くん……?」


拳藤「!!……いや、ほんと悪い。あなたがバイトしてるって知ってたら……。あいつやたらとあなたに絡むからさぁ」




そう。


廊下で会ったりするといつも、不必要に絡んでくる。


ただ、私が物間くんに対して少し苦手意識を持っているから、普通に接することができなくて……。




拳藤「まっ、私もいるしそこまでオーバーなのはしないと思う!」


あなた「うんっ、期待してる!」




笑い合って席に案内してから、一佳はお手洗いに立った。



カランカラン……



……バッドタイミング。




あなた「……いらっしゃいませ、お連れのお客様がお待ちですコチラヘドウゾ」



物間「どうm______、あっれぇ〜?エリートの百々さんじゃないですかぁどうしたんですかバイトですか社会勉強ってやつですかぁ?」





……落ち着け、私は今接客してる。


相手はお客様。お客様……。





物間「えぇっ?それでなに、その服〜っ。せっかく可愛い作りなのに野生動物が着るから見てられないよ〜」





お客…………様。





あなた「……席にご案内いたしマス。コチラヘドウゾ」


物間「……お前マジでからかい甲斐がない」


あなた「怒って欲しいならバイト先以外でお願いしマス」




席に案内してすぐに、一佳が戻ってきたので物間くんはスッと大人しくなった。




拳藤𝓈𝒾𝒹𝑒.°



物間「あいつコーヒー淹れてるよ〜機械扱えたんだね」


拳藤「物間勉強は?」



まったく……。


ソファーから身を乗り出して、物珍しそうにカウンターで働いているあなたを見つめている。



目がキラッキラなんだよなぁ。




拳藤「ほんとあんたあなた好きだよなぁ」


物間「はァ!?誰があんな野生動物」




冷や汗をかきながら席に座り直して、やっとノートを広げた。




拳藤「はい、まずはヒーロー情報学だな」





「おい、みろよあれ、物真似野郎じゃん」
「うわマジだっ、あれな?雄英行ってんだろ?仲良くしとけばよかったかなぁ」




……?なんだ?



斜め横のテーブルから聞こえてきた話し声に顔を向けると、そこに座っていた2人の男子はサッと顔を逸らした。



 
あなた「お待たせいたしました。アイスコーヒーです」
  


そこにお盆を持ったあなたがコーヒーを運んで行った。




「あざ〜すっ……ね、店員さん学生?」   


あなた「……?はい。失礼いたします」




あからさまなナンパをスルーして戻っていくあなたの手を掴んで止めると、そいつらはニヤニヤ笑いながら話しかけ続ける。






「えっ、てかよく見たらテレビ出てた雄英の人じゃん!」


「マジだ!!なぁ写真撮って!!!」


あなた「……すみません、バイト中なので」


「え〜いいじゃん、ヒーローは市民の願い叶えてくれるんだろ?」


「ほらほらこっち〜」



手を引かれて、心底嫌そうな顔をしたあなたはカウンターにいる店員さんに目線を送る。


店員さんは眉間にシワを寄せて小さく頷いて、あなたは渋々そのソファーに腰掛けた。



……助けに行ったほうがいいかな。




「やった!流石ヒーロー志望っ」


「どっかの出来損ないとは違うよなぁ〜」



拳藤「……?」



今、こっち見なかったか? 



物間「…………」



物間の様子もおかしい。
   



「"1人じゃなんにもできないヒーロー"なんて、いる意味ねぇからなぁ」





……そういうこと、ね。






「どうせ入試も他人の力ありきだろ〜」





拳藤「……あいつらっ」


物間「拳藤、いい」




シャーペンをくるくる回して、何も映ってないような瞳で教科書をめくっている。




……よくないだろ、どう考えても……。






「有望なヒーローの卵と写真っ!映えるわぁ〜」



あなた「あ、ちょっといいですか?」




運んできたアイスコーヒーが汗をかいていたので、布巾で拭っている。


……って、あなた、あの顔まさか……。




「ねぇ〜髪、ショートの方が似合うと思うよ〜」




1人があなたの髪をサラッと掬うと、横目で見ていた物間の肩がピクッと動いた。




あなた「どうも。……私は、あなた方はもっと_____」




言いながら、2つのグラスを両手に持ち。




ピシャッ!!!




コーヒーを思いっきりその人達にぶちまける。





あなた「頭を冷やした方がよろしいかと」






そう言って、整った口元をフッと緩めた。

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