轟「ありがとな」
病院を後にしてから、轟くんは改まって礼を言ってきた。
あなた「なになにっ、今更〜」
バシバシ肩を叩くと、「いてぇ」と呟く。
轟「……ショッピングモール、今臨時休業らしいぞ」
携帯を操作していた轟くんがそう言うので、電車に乗って少し遠出。
当初予定していたお店よりは少し小さいけど、それでも300近くの専門店と契約を結んでいるショッピングモールだ。
轟「何々買うんだ?」
あなた「えっとねぇ」
エスカレーターに乗りながら聞かれて、ポケットに入れていた四つ折りのメモ用紙を広げた。
あなた「私服、パジャマ、洗面用具、水着、キャリーバッグ、タオル……くらいかなぁ」
轟「……ほぼ全部だな。キャリーバッグは郵送してもらうか」
あなた「ほぉ、そんなんできるんだ!」
轟「……洗面用具から見るか。そこドラッグストアあるし」
2階に着いたところで指をさされ、暗緑色に白で店名が書かれた看板を目に入れた。
ま、どこでもいっか。
洗面用具を揃えて買い物袋を提げ、次は私服。
【ENG】と筆記体のロゴをちょこんとこさえているお店に入った。
あなた「……どれがいいのか全く分かんない」
轟「俺もこういう店に入るのは初めてだ」
キョドッていた私達を見かねたのか綺麗な女性店員が話しかけてくれた。
あなた「あの、1週間の林間合宿用の私服を探してて……」
「でしたらこちらはいかがでしょうか。ゆとりのある素材なので動きやすさがありますし、蜜柑色がアクセントとなって_______」
流石プロ。
予定としていた着数も残り1着となった。
「お客様はスタイルが良いのでなんでも似合いますねっ。次はこれを着てみてください!」
あなた「あ、はい」
試着室で何度も着替えて、店員さんに見てもらい、轟くんに見てもらい、「いいんじゃねぇの」という少し投げやりな応答に購入を決意という決まった流れ。
あなた「どう……でしょうか」
「とってもお似合いですっ。ねっ!彼氏さん!」
轟「……」
やっぱり、「彼氏」って言われるの嫌だよね……。
まぁ返答は分かってるし、これにしようかな……。
轟「これ」
あなた「?」
と、轟くんはウロウロしていたあたりにあった服を持ち上げて見せた。
轟「……こっちの方が、似合うんじゃねぇの」
目をそらしてそう言うと、何故か店員さんが大喜びしてそれを受け取り、持ってきた。
「着てください是非っ!」
あなた「あ……はい」
言われるままに試着室に戻って服を着てみる。
レモンイエローのワンショルダーのトップス。
轟くん……こういうのが好きなのかな?
着替え終わって見せると、店員さんは今までで1番表情を明るく変えた。
「彼氏さん彼氏さんっ」
轟「…………、」
あなた「あ、変……かな?」
轟「いや……」
轟くんはその整った目で私を上から下まで見ると、口に手の甲を押し当てて顔を背けた。
轟「想像より、ずっと似合ってる」
あなた「……っ」
え、照れてるの……?
轟くんが??
あなた「あ、じゃあその、これにする、ね」
轟「……ん」
沢山買った服を両手に提げて、次の買い物へと向かった。
・
あなた「いや〜、大漁大漁!」
轟「……ついてきて正解だったな」
あなた「あはっ、ご迷惑おかけしてほんと……」
一回マジで迷子になりかけた。
轟「いや、そうじゃねぇよ」
首を振って、足元に置いた紙袋をサッと持ち上げた。
轟「量が量だから、持って帰るの大変だろ」
そう言って当然のように荷物を持ってくれるので、「申し訳ないから待つよ」と言うと「一応女だからな」とからかうように言われた。
来た道をそのまま戻り、またもや家まで送ってくれた。
轟「じゃ、また明日な」
あなた「うんっ。今日は本当にありがとう!」
夕暮れを帰っていく轟くんの後ろ姿を見送ってから、部屋に入って荷物を整理した。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!