第52話

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24,315
2020/07/08 10:09
夕暮れの街を歩きながら、私と轟くんの肩は触れるか触れないかのところで揺れる。




轟「家、学校の近くだったか?」



あなた「うんっ!轟くんはどこら辺なの?」



轟「ショッピングモールの方」





言われて、まだこの土地の地図が頭に入りきってない私は思考を巡らせた。



えっと、ここが中央通りだからつまり……。




あなた「え、逆方向じゃない?」



轟「……話に付き合わせたからな。送る」



あなた「いいよそんなっ……!」



轟「もう暗くなるだろ。女______、女?まぁ、一応な」





……切島くんもそうだけど、私の事女だと思ってないな?


まぁ、いいんだけど。




あなた「…………私の事女の子って思ってないんなら、なんでキスなんかしたのさ……」



轟「______、多いな」




唇を尖らせて不満を言うと、隣で足を止めた轟くんが家電用品店TVを覗き込んでいた。


……もう、聞いてないし。




あなた「多いって何が_______」




〈今回被害が出たのは、保須市の_____〉




キャスターの声に、私も並んでTVを見入った。




テロップには【インゲニウム 再起不能か】と表示されている。




〈過去、17名ものヒーローを殺害し23名のヒーローを再起不能に陥れたヒーロー殺し。そのヴィラン名は_____〉



あなた「"ステイン"…………?」





『俺の思想に反する』




昨日の……あのヴィラン……。



ヒーロー殺し……。



インゲニウムが、再起不能……。




轟「……飯田の兄貴だ」



あなた「え?」




再度画面を見ると、時間があったのは昨日の午後のようだった。




……つまり、あの時私がステインに遭遇した時にはもう、飯田くんのお兄さんは______。





轟「?百々……行くぞ」


あなた「……うん」




飯田くんのお兄さん、ヒーローだったんだ。



そして、ヒーロー殺しに再起不能に陥れられた……か。





『俺の……俺の、代わりに……皆を_____』






……飯田くんがお兄さんのことをどういう風に思ってたかは分からないけど、雄英でヒーローを目指しているからには尊敬しているんだと思う。



自分の慕うヒーローが……打ちのめされてしまった時の苦しみを、私はよく知っている。





知っているから、だからこそ……かけられる言葉が全部軽く感じてしまうと分かっているから、私は何も……言えないんだ。






あなた「あ、家ここなのっ。ありがとうね!」




アパートを指差すと、やっぱり驚いたように目を見開いた。




轟「……ああ」




だけど私に悟られないように、表情を戻して私と向き合う。




あなた「ふふ、身寄りが無かったらこんなもんだよっ。今も必死にバイトして稼いでる」



轟「……お前なら、隣の県から走って登校してそうだったからな」



あなた「ふ、それ……爆豪くんにも言われたよ〜!」




まったく、とんだ偏見だよね……。




とりあえず最後にもう一度お礼を言ってから見送ろうとすると、轟くんはなぜか訝しげな顔で私を見つめた。




轟「爆豪……?家に来たのか?」



あなた「え?うん……一昨日に」



轟「…………なんで」





??逆になんでそんなこと気になるんだろう……。





あなた「一緒に帰ってそれから______」





そういえば、爆豪くんの用事ってなんだったんだろう。


あの日話したことといえば______。





あなた「あ!そうだよ轟くんがあんなことするから……!!」




轟「??」




あなた「キスなんてするからっ、爆豪くん張り合っちゃって大変だったんだよ!?」





詰め寄ると求めていた謝罪と反省はなく、ただただ驚いているようだった。




あなた「……?とにかく、もうノリであんなことするの_________」



轟「ノリじゃねぇよ」



あなた「……ぇ」




見つめられるその眼差しが強すぎて、一歩下がった私に轟くんは詰め寄った。


さっきのように、私の頬をその手で覆って。





轟「俺は_________」





言いかけて、口をつぐんだ。






轟「…………また、明後日な」




それだけ言い残し、日が沈みきったその道を歩いて行った。











あなた「_________、え……?//」

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