夕暮れの街を歩きながら、私と轟くんの肩は触れるか触れないかのところで揺れる。
轟「家、学校の近くだったか?」
あなた「うんっ!轟くんはどこら辺なの?」
轟「ショッピングモールの方」
言われて、まだこの土地の地図が頭に入りきってない私は思考を巡らせた。
えっと、ここが中央通りだからつまり……。
あなた「え、逆方向じゃない?」
轟「……話に付き合わせたからな。送る」
あなた「いいよそんなっ……!」
轟「もう暗くなるだろ。女______、女?まぁ、一応な」
……切島くんもそうだけど、私の事女だと思ってないな?
まぁ、いいんだけど。
あなた「…………私の事女の子って思ってないんなら、なんでキスなんかしたのさ……」
轟「______、多いな」
唇を尖らせて不満を言うと、隣で足を止めた轟くんが家電用品店TVを覗き込んでいた。
……もう、聞いてないし。
あなた「多いって何が_______」
〈今回被害が出たのは、保須市の_____〉
キャスターの声に、私も並んでTVを見入った。
テロップには【インゲニウム 再起不能か】と表示されている。
〈過去、17名ものヒーローを殺害し23名のヒーローを再起不能に陥れたヒーロー殺し。そのヴィラン名は_____〉
あなた「"ステイン"…………?」
『俺の思想に反する』
昨日の……あのヴィラン……。
ヒーロー殺し……。
インゲニウムが、再起不能……。
轟「……飯田の兄貴だ」
あなた「え?」
再度画面を見ると、時間があったのは昨日の午後のようだった。
……つまり、あの時私がステインに遭遇した時にはもう、飯田くんのお兄さんは______。
轟「?百々……行くぞ」
あなた「……うん」
飯田くんのお兄さん、ヒーローだったんだ。
そして、ヒーロー殺しに再起不能に陥れられた……か。
『俺の……俺の、代わりに……皆を_____』
……飯田くんがお兄さんのことをどういう風に思ってたかは分からないけど、雄英でヒーローを目指しているからには尊敬しているんだと思う。
自分の慕うヒーローが……打ちのめされてしまった時の苦しみを、私はよく知っている。
知っているから、だからこそ……かけられる言葉が全部軽く感じてしまうと分かっているから、私は何も……言えないんだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!