緑谷𝓈𝒾𝒹𝑒.°
“筋力増幅”
“全回復”
個性が……2つ……!?
飯田「何を言っているんだ彼女は……」
隣で、飯田くんが頭を抱えた。
僕も彼女の言動には驚かされたし、信じられない。
……個性が2つなんて、そんなこと。
麗日「“筋力増幅”って……デクくんの超パワーとちょっと似てるね……」
かっちゃんに睨まれてこっちまで戻ってきた麗日さんに言われて、確かにともう一度百々さんを見た。
爆豪「おいほくろ野郎てめぇ!んな嘘が通じると思ってんのか舐めてんのかおい!!」
かっちゃんの気に障ったようだ。
胸ぐらを掴んで押し上げるかっちゃんの手首を、抵抗すべく握る。
あなた「ほんと……なんだけど!」
歪めたはずの顔は、それでもなお整っていて演技にさえ思えてくる。
爆豪「そんなら今ここで!!使ってみろよ、その個性……!」
『足元にも及ばない』
そう相澤先生から言われたことが、よほど屈辱だったんだろう。
昨日あんなことがあったばかりだし……。
あなた「っ……」
さらに力を入れるかっちゃんの手から、百々さんのそれが離れた。
スッと右手で自身の左手首を掴み、かっちゃんに見せるように前に出した。
爆豪「なにを……」
バギッ、ゴキッッ……!!
緑谷「!!!?」
あなた「ぐ……ぁっ、」
ドサッ
飯田「じ……」
轟「自分の腕折りやがった……」
麗日「ひぃぃっ、」
あまりの生々しい音に、かっちゃんはすぐに百々さんを解放した。
百々さんはそのまま尻餅をつき、見るからにポッキリ折れている腕を右手で押し上げた。
あなた「フー……フー…………見て、よ……」
爆豪「っ、あ"ぁ……?」
あなた「“筋力増幅”……」
緑谷「!!」
確かに、首を掴まれて普通にあのパワーを出せるとも思えない。
それにあんなに綺麗に折れるってことは……。
あなた「それから……」
爆豪「……っ」
百々さんは自身の折れた腕に、そっと触れる。
途端、眩い光に包まれて。
ゴッッ……キン
数秒して光が消えた後、綺麗に元通りになった左手が現れた。
あなた「“全回復”……。っあ~!やべぇめっちゃ痛かったんだけど……」
「もう絶対やらないわぁ……」とぶつぶつ言いながら、腕をさすって立ち上がった。
飯田「なんて……ことだ」
飯田くんに同調する言葉も、何も見つからない。
あなた「これでも私とやりたいって言うなら……別にいいけどさ」
爆豪「……」
あなた「どうする?やる……?」
左腕の動きを確かめるように手首を回しながら、挑発するようにかっちゃんに尋ねた。
少し、ほんの少しだけ……怒っているようにも見える。
爆豪「______あたりま」
轟「待て」
かっちゃんを遮って、轟くんは相変わらずの無機質な声を発した。
轟「さっきも言ったろ……俺が先約だ」
爆豪「知らねぇよ、んなことぁ……!こいつはやるっつってんだろ!!」
今にも個性を使いそうな勢いのかっちゃんを放っておいて、轟くんは百々さんに視線をやった。
轟「俺の話は……“一つ目ヴィランについて”だ。それでもお前は……爆豪を優先するのか?」
……“一つ目ヴィラン”??
なんだ、それ……聞いたことないぞ。
誰もが轟くんの発言に疑問を抱いている中、ただ1人……。
百々さんだけが、表情を強張らせて震えていた_。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。