あなた𝓈𝒾𝒹𝑒.°
目が覚めてすぐ、体育祭まで間もないことを伝えられた。
どうやら私の体はひどく衰弱していたようで、体力も吸いとられていくから大変だったと言われた。
だから私は、自分の個性で治すために体力を貯めていたんだと伝えた。
リカバリーガールは苦笑いだったけど、轟くんはひどく驚いたようだった。
それから、脳が正常に機能しているかのテストを受けた。
結果は、異常なし。
勿論轟くんの怪我を治した時に酷い衝撃を受けたけど、それも含めて個性で回復をすることができたから。
私の個性は、自分に使う分にはメリットしかないけど人に使うと自分が追い込まれる。
だから多用は禁じられている。
アギによって誰かが怪我をした場合のみ、使うことにした。
でも、変な時期に転校してきてろくに授業も受けていない私が、2週間弱欠席扱い。
このままだと除籍は免れないだろうと伝えられた。
だけど____。
『体育祭、3回戦まで勝ち残れば嫌でも除籍はできない』
そう相澤先生から言われて、リカバリーガールには猛反対されたけど出場を決意した。
私はまだ、ここにいなくちゃいけないから___。
緑谷𝓈𝒾𝒹𝑒.°
あなた「……へへっ。復活!」
そう言ってピースを作った百々さんに、芦戸さん達が駆け寄った。
芦戸「あなた!!あなた、おかえり!!」
涙ながらの歓迎に、百々さんは優しく笑ってその頭を撫でた。
あなた「……ただいま。ごめんね、心配かけて」
その落ち着いた笑みが、皆の涙を助長して。
限りなく泣き続ける皆に苦笑いしてから、百々さんはふと視線を僕に移した。
あなた「緑谷くん……お見舞いありがとう」
緑谷「あっ、う、うん……!体はもう、平気なの?」
あなた「うん。脳にも異常ないよ。だから、また皆とヒーローを目指せる!」
その言葉に、僕は心底安心した。
まだ百々さんと、一緒に学んでいきたいから。
百々さんはそれから、窓側に寄って。
あなた「爆豪くん!」
あろうことかかっちゃんに話しかけた。
爆豪「……あ"んだよ」
あなた「……お見舞い、ありがとね」
爆豪「うるっせぇ!煽ってんのか!?」
えぇ、なんでそこでキレちゃうんだろう。
あなた「……煽ってない煽ってない!“死んだらぶっ殺す”って言われたから戻ってきたよ!!」
“死んだらぶっ殺す”……?
矛盾しすぎじゃないか?
百々さんは、ははっと笑ってからとんでもない事にかっちゃんのそのツンツン頭を撫でた。
「「「(それはやばいって……!)」」」
クラス全員かっちゃんほ暴走に身構えた。
爆豪「バカにしてんのかぁぁ!!?やっぱ気に食わねぇぶっ殺す!!!」
案の定キレて立ち上がったかっちゃんの頭から手を離して、一歩後ろに下がった。
そして……。
あなた「ふふっ、私、爆豪くん結構好きだ!」
爆豪「……っ」
「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」
とんでも発言に困惑した僕たちは、かっちゃんの反応を見ようと顔を覗く。
爆豪「わ…………訳分かんねぇ!!//」
蛙吹「あら、爆豪ちゃん照れてるわ」
爆豪「~っ、るっせぇ照れてねぇよ殺すぞ!!」
かっ……かっちゃんが赤面してるとこ初めて見たぞ!?
百々さん……恐ろしい。
照れながら激おこになるかっちゃんに大笑いしながら、今度は教室の後ろに向かう。
爆豪「てめぇシカトすんなやぁぁっ!」
今にも個性を連発しそうなかっちゃんを放っておいて、席に座っている轟くんの目の前まで行って足を止めた。
あなた「昨日、言い忘れてたんだけどさ」
轟「……なんだ?」
そして、百々さんはさっきの笑いとは打って変わり、大きく頭を下げた。
あなた「USJの時、ごめんなさい」
??
僕も、周りの皆も、多分轟くんさえも、彼女が何に謝罪をしているのか全く分からなかった。
だって彼女のおかげで、轟くんは無事だったんだから。
あなた「許されることじゃないのは分かってる。本当にごめんなさい。あの時はああするしか思いつかなくて……」
頭を下げたまま苦しそうに謝る百々さんに、轟くんは席を立って顔を上げさせた。
轟「何の事を言ってるんだ?」
あなた「…………私、個性を使うために……キス、したの」
轟「……は?」
いや……うん、確かにしてた、けど。
上鳴「いや……そんなことかよ!」
僕らの心の底からの突っ込みを代弁した上鳴くんに、百々さんは顔を上げて反論した。
あなた「だってもし、もしファーストキスだったら……!?私、取り返しのつかないことした!いくら謝っても償えないよ!!」
百々さんって……大人なのか子供なのかよく分からない。
轟「百々、俺は別に___」
あなた「どうだったの!?ファーストキスだった!?」
轟「……は!?っ、て、それは……」
肩を掴まれて揺さぶられながら、轟くんは僕たちを見渡して苦い顔をする。
確かにこんな、皆が居る前でファーストキスだったとも、そうでないとも言いにくいだろうなぁ。
……頑張れ、轟くんっ。
切島「プックク……どうなんだよ轟ぃ~?」
面白がって顔を覗き込む切島くん。
後で怒られないか……?
轟くんは静まり返って、そしてゆっくり顔を上げた。
轟「……ファーストキスだ」
「「「(言っちゃうんだ……!!)」」」
芦戸「(意外……!女の子ブイブイ言わせてそうなのに!)」
轟くんの言葉を聞いた百々さんは、絶望的な顔をして。
あなた「~っ、ほんとに、ごめんなさい!の、ノーカン!!ノーカンだよ!!!」
自分にも言い聞かせるように轟くんの肩をポンポン叩く。
切島「そう言うあなたはどうだったんだよ!!ファーストキスだったのかっ?」
心底楽しそうにお腹を抱えて尋ねた切島くんに、キョトンとした顔で答えた。
あなた「や…………私は違うけど、」
「「「(違うんだ!!?)」」」
……僕たちは何の会話を見てるんだ?
轟「……」
あなた「だっ、だから、ノーカンね!まだ轟くんのファーストキスは守られてるから!」
肩から手を離して握り拳を作り、笑顔を見せた百々さん。
轟くんはその右手首を掴んで、片手を顎に添えた。
轟「ノーカン……?」
あなた「うん!_____え」
そして、引き寄せて____。
……チュ、
確かに唇を重ねた。
轟「……必要ない」
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。