あなた「疲れた……」
芦戸「同じく……」
みっちり練習してから、明日筋肉痛大丈夫かな……?とすっかり“全回復”を忘れて呆けていた私の机に、バンっと手が乗っかった。
あなた「……爆豪くん?どしたの」
机に顎を付けたまま上目遣いで見やると、何やら怒ったような顔で口を開いた。
爆豪「今日俺と一緒に帰りやがれクソほくろ野郎」
あなた「_________え」
「「「「!!!?」」」」
芦戸「ばっ、爆豪まで……!?」
爆豪「うっせぇ「まで」ってなんだ「まで」って!あ"ぁ!?」
あなた「…………いいけど」
「「「「(いいんだ……!?)」」」」
また「勝負しろ」とか言われるのかな……?
するなら明日でいいじゃんね。
帰路について、校門から出る。
爆豪「…………」
何……ずっと黙ってるけど。
あなた「何か話があるんじゃないの?」
私家近いし……あんまり長引かせると帰れなくなるんだけど。
爆豪「るっせぇ!!!」
えぇ、理不尽すぎない!?
爆豪「おい、ほくろ野郎」
あなた「……あなたですーだ!」
爆豪「……チッ、あなた」
おぉ??
ちゃんと名前呼んだよ……!なんか感激!!
あなた「ふふ、なーに?」
爆豪「何笑ってんだコロスゾ!!」
あなた「ぷっはは!……あ、私家ここなんだけど」
爆豪「!?」
流石の近さに驚いたのか勢いよく私の指差す方を見て、少し静止した。
まぁ……中々人の住めたようなアパートじゃないしね。
訳あり物件だし。
怪奇現象あるし。
爆豪「……そうかよ」
あなた「…………びっくりした?おんぼろで」
爆豪「してねぇ。どっちかっつうとお前が学校の近くに住んでることがびっくりだ」
あなた「……なんで?」
爆豪「隣の県から走ってきててもおかしくないからな」
あなた「あのねぇ……、」
まともな会話できそうにないし、とりあえず荷物を置いてくるから待ってるように伝えた。
軋む錆びた階段を上がって、鍵をさして立て付けの悪い戸を開ける。
あなた「_________ただいま」
爆豪「誰もいねぇじゃねぇか」
あなた「ふわっっ!!!?」
後ろからの声に驚いて振り返ると、当然のように立っている爆豪くん。
待ってろって言ったのに……。
あなた「今のは家に言ったの!」
爆豪「あぁそうかよ。…………、生活感ねぇ部屋だな」
あなた「ジロジロ見んな!!」
躊躇いなく足を踏み入れた爆豪くんの頭をバシッと叩いて、入り口付近に鞄を置いた。
爆豪くんはじーっと足元を見ている。
あなた「……他の人の靴はないよ。言わなかったっけ、私家族死んでんだよ」
爆豪「……んで俺がてめぇの事情いちいち覚えてると思ってんだよ知るか」
あなた「ふふ……そーだね」
爆豪くんのその返答は、余計な気を遣われるよりずっと心地よく感じられた。
あなた「で、話ってなんなの?」
爆豪「……」
キィーーーー、ガチャ
開けっぱなしにしていたドアを後ろに回した手で閉めて、顔を伏せる。
あなた「……爆豪くん?」
そのまま、スタスタとこちらに寄ってきて。
思わず後ずさると、古い床板の上に敷いた猫柄のカーペットに尻餅をついてしまった。
あなた「痛ぅ……」
閉じた目を開くと、至近距離に爆豪くんの顔。
あなた「え…………なに、」
私の腰の側に足を付いて、手首をキュッと掴む。
慌てて急いで振り払おうとすると、床についていたもう片方を払われて体勢を崩した。
その片手を膝で押さえつけられる。
あなた「ちょ……、セコいって!こんなんで勝てて嬉しいわけ!?」
爆豪くんならもっとちゃんとした形で仕掛けてくると思ったのに……!
掴まれた手が、唯一私が床に倒れ込まないための綱で。
なんとか踏まれている方の手を動かそうとするけど、力が入らない。
ただ、威圧感のある目に睨まれて______。
爆豪「おい、ほくろ野_______“あなた”」
あなた「_________!」
今度は自分から、私の名を口にした。
そして_________。
爆豪「俺とキスしろや」
あなた「_________!!!?」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。