N side_
ふわっと相葉さん家の空気に包まれる。
何度も来たはずなのに、慣れないこの空気は、きっと俺の気持ちが関係しているんだろう。
早々とソファに腰掛け、ゲーム機を取り出して画面に視線を移す。
…大して集中出来ないのにね。
相「じゃ、多分すぐ出来るから!」
そんな自信ありげな声が奥のキッチンで聞こえる。
ちらりとそちらを見れば、腕まくりをしてか細く華奢な腕が露わになっていて、器用に包丁を扱っていた。
…ダメだ、ゲームに気を移そう。
気付いたらずっと彼を見つめてしまいそうになるから。
ゲームの画面内には、扱っているキャラが激しく戦闘を繰り広げている。
ゲームは俺のモヤモヤとした面倒くさい気持ちをスッキリとさせてくれる。
小さい頃とは全く違ったゲームに対しての感情。小さい頃はゲームはひたすら楽しいものだったのに、今ではある意味ストレス発散みたいなものだ。
恋愛は大人になるほど複雑になって、手段は増えど面倒くさくなっていく。
しかし、その面倒くささですら心地よく思ってしまう時がある俺が嫌だ。
相「できたよ、ニノ。」
いつの間にか目の前に置かれた料理。
「…生姜焼きだ、」
美味しそうな匂いがリビングに充満する。
今までは中華料理ばっかだったのに、やっぱりハマってから色々レパートリーが増えたのかな。
相「この生姜焼き、松潤にも食べてもらったんだけど美味しいって言ってくれてさ。
ニノにもぜひ食べてみて欲しくて…」
胸がきゅっと痛んだのが分かった。
そっか、じゃあ前に潤くんも家に来たんだ。
このソファーに、潤くんも座ってたんだ。
…はぁ、もう俺って本当面倒くさい。
別に、友達が家に来ただけなのに、脳内に広がるのは聞き苦しい嫉妬ばっか。
こんなのバレたら、増々相葉さんに嫌われてしまう。
そんなどうしようもない嫉妬を隠すように生姜焼きを頬張った。
「…うん、美味しいっ、」
相「本当?ふふ、良かったぁ〜」
ああ、その顔を見れただけで十分だ。
そう、俺はただ、相葉さんの笑顔を隣で見ていたいだけ。
そしてその笑顔を枯らしてしまわない様に、傍に居たいだけ。
だから…どうか、まだ俺の気持ちがバレませんように。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!