第3話

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3,544
2020/11/08 15:50
ある日の昼休憩





昼飯を済ませて、自席でスマホゲームをして時間を潰していると、遠くの方で女の子たちの騒ぐ声が聞こえてきた。




「え!松村主任って彼女いるんですか!?」

「うっそ!やだー!」




キャーっと言うよりは、ギャーって感じの複数の悲鳴だ。



その中心で指を口元に当てて、シーっと必死に大人しくさせようとしているのが、話題の人、そして俺の恋人。



騒ぎを聞きつけた他の部署の女の子たちまで集まってきて、あちこちで悲鳴が上がる。



なんて罪深い男なんだよ。



隅で泣いている子までいる。




「あの、ちょっと、みんな静かに」


「一体どこのどいつですか!?」




バツが悪そうに苦笑いで誤魔化そうとしているけれど、女の子たちの勢いは止まりそうもない。




どこのどいつか…
北斗はいったいどんな風に答えるのだろうか。



目線はスマホのままで聞き耳を立てる。





「どんな子って、っ普通の子ですよ」




いや、普通か?
俺一応男だし、周りの女の子たちからしたら絶対に普通じゃないだろ。



案の定もっと具体的に教えてください!と凄まれている。







「えぇ、んー…年上…かな」


「松村さん年上好きだったんですか…」



相手が年上と聞いて、落胆する女の子たち。

北斗は圧倒的な年下キラーだから、無理もない。部下の女の子はみな一度は好きになるって噂も聞いたことがある。





「え、もしかしてこの会社に、、?」


「え、いや、それは、」




わかりやすく戸惑う北斗に、女の子たちはまるで犯人を探すかのように周りを見回す。



「ほらみなさん休憩終わっちゃいますよ」



ふに落ちない女の子たちは解散する気配はない。



質問に答えてもらえたら戻ります!と誰かが言ったのを皮切りに、まるで一問一答のような状況に陥った北斗は、腹を括ったのか、わかりました、と言い笑った。


目、笑ってないけど、怖いんだけど。


女の子たち、北斗怒ってるよ、気づいて、、





「出会いはいつですか?」

「学生時代の先輩です」



「松村主任からアプローチを?」

「俺がずっと片思いしてたので」



「相手のどこを好きになったんですか?」

「……笑顔が可愛いところ、ですかね、」




ふと目線を外した北斗と目が合う。

デスクとデスクの隙間からこっそり見ていたつもりが、ばれていたのか、耳にさしていたイヤホンを慌てて直す振りをして目を逸らした。




「可愛い系ですか、美人系ですか!?」

「んー…どちらかというと、美人系、ですかね、……金髪が似合う感じの人です」




松村主任は金髪美女の年上で尚且つ笑顔が可愛い人が好みということですね、、と肩を落とす女の子たちを見て、いやいや、全然そんなことはないのにと、なんとなく申し訳ない気持ちになる。




〜♩




午後の始業チャイムがなる。


「もういいですか?」



ほっとした顔で、立ち去ろうとする北斗に、最後の質問です!と女の子たちが引き止める。



「そのお相手はうちの会社の人ですか!?」



やっぱり、たどり着くのはその質問。

北斗はなんて答えるのだろうか。


はらはらしながら眺めていると、北斗は初めて、くすりと笑って、



「そうですよ」



と答えた。

あぁ、答えてしまったじゃないか。



おいおいおい、と目を見開いて見ていると、
やはり女の子たちは再びどよめき立っている。


どこよ、誰よと、ざわつく女の子たちに、静かに頭を低くした。




女の子たちの騒ぎを見かねたお局さまが「あんたたちいい加減にしなさい!」と一喝。



やっと女の子たちはしょんぼりと退散していった。




作り笑いで女の子たちを見送ったあと、怖い顔をしてため息をついて席に座った北斗が、しばらくして顔を上げて、また目があった。



ふっと笑ったかと思うと、手元のスマホが震えた。



“見過ぎ”



顔を上げるとにやにやと笑っている。


“見てねぇよ!”と口パクで伝えると。



北斗も口を小さくパクパクと動かした。


恥ずかしい、本当に恥ずかしい。

誰かに見られたらどうするんだ。




“かわいい”






誰にも見られていない時はあんなに怖い顔をして、女の子たちには作り笑いをしていても、俺と目が合うとこんなに優しく笑ってくれるんだ。



あぁ、もう、俺、笑顔が可愛くて年上で、金髪の似合う美人で、、よかった、です。




強がりな俺は、また小さく、



“うるさい”



と口を動かした。




ほんと可愛くない、俺。





continue.

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