寝ぼけ頭でもわかった、コーヒーの香り。
あぁ、少しだけ頭がクラクラする。
「京本、起きた?」
夢じゃない。
整理の行き届いた見慣れない部屋で、見慣れたはずの顔が、見たことのない優しい顔で笑っている。
朝からこんなに爽やかな人、いるんだ。
「…はは、何隠れてんだよ。おはよ。」
シーツから少しだけ顔を出して、幸せを噛み締めていると、また不意の笑顔。
「……だいすき」
「ちょ、バッ、…びっくりしたー…あつっ!」
もう隠す必要のない気持ち。
伝えなかったことをずっと後悔していたのだから、もう我慢はしない。
ただ、俺のだいすきな人は、驚いて、コーヒーカップに指を突っ込んでしまったらしい。
「大丈夫?」
「えっ、ああ、うん。……コーヒー飲む?」
「…うん!」
ベットから抜け出して、少しふらつきながら、キッチンに入って、横に立つ。
「わぁ…、北斗料理できるの?」
「うーん、自分が困らない程度くらいは」
必要最低限の調味料が綺麗に陳列されたキッチンでは、味噌汁がふつふつと湯気をあげている。
「おいしそ…」
「二日酔いには味噌汁って言うじゃん」
そう言ってコンロの火を消すと、手際良くお椀に味噌汁をよそって、カウンターに並べた。
「俺、コーヒー運ぶね!」
ありがとうと笑う顔に、ついこちらも笑顔になる。
「…ふっ、初めてのお遣い感」
「うるせー」
ごめんごめん、と頭をぽんぽんと優しく2回叩くとダイニングテーブルに味噌汁を並べてくれた。
いただきます、と手を合わせると、召し上がれと言って北斗もマグカップに口をつけた。
北斗の手作り味噌汁は、それはもう、美味しかった。
「……染みるー…」
「それはよかった」
こちらを見ることなく微笑を含む顔に、ああ、照れてるなとすぐに分かる。
「ねぇ、北斗」
「なに?」
俺たちはきっと、この小さな島国では、マイノリティと言われるだろう。
それでも俺は自分の気持ちに正直に生きていきたい。
周りに公表できなくたっていいし、外で手を繋いだりできなくても仕方がないと思う。
それでもいいから、そばに居させて欲しいと思う。
「俺たち、その、「付き合おっか」
俺の言葉を遮る北斗の言葉に、はっと顔をあげる。
そこには真っ直ぐにこちらを見つめ、真剣な面持ちの北斗。
「大事にする。だから俺と付き合っ「はい!!」
嬉しくて、つい、北斗の言葉を待つ前に食い気味に返事をした。
そんなの、決まっているじゃないか。
むしろ昨日の時点でもう付き合えたのだと思っていた。
よかった…確認するところだった。
「はは、食い気味」
口に手を添えて小さく笑う姿に、今更少し恥ずかしくて、ごめんと笑った。
「謝んなくていいよ、嬉しいよ」
もう一口コーヒーを飲んだところで、今度は全く明後日の方向を向いて口を開いた。
「昨日も言ったけどさ、」
「え、何?」
「今日も、泊まるなら、泊まっていいけど」
コーヒーに息を吹きかけながら、ぶっきらぼうなお誘い。
覚えてるよ、かなり酔ってたけど、絶対泊まるって心に決めていたから。
「本当にいいの?」
「ほら、うち、結構広いから別に…」
「うん!泊まる!……泊まる!」
大事なことなので二回言った。
北斗はくすりと笑い、どうぞ、と答えてくれた。
「やったー!お泊まりだー!」
「小学生か」
永遠のな!とポーズを決めると、中学二年生でしたね、と苦笑いで流された。
心の中で小躍りしながら、美味しい味噌汁を飲み、しばらく残ったお酒のムカムカと戦いながら午前中をダイニングで過ごした。
この時の俺は、午後は何しようかなぁとか、北斗ん家綺麗だなぁとか、そんな取り留めのないことしか考えていなかったのだ。
continue.
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。