第30話

似《さとななころ》
2,989
2021/08/05 11:37
さとみside

じりじりと熱い陽の光に照らされ、俺は1人ある人の家に向かっていた。
正直、こんな暑い中家からは1歩も出たくなかったが彼からの急な連絡に驚いて家を出たのだ。普段から、定期的に連絡を取ることも無いあの人からきたのだ。相当なにか大きなことがあったのだろうか。
そんなことを考えているうちに彼の家が見えた。まだ真昼間なのにも関わらず、カーテンは閉め切っていて明かりすら感じられない。「大丈夫かよ、」余計に心配になった俺は急いでインターホンを押した。
すると、少しの間をあけゆっくりと玄関が開いた。

な「あ、いらっしゃい。さとみくん」

さ「よ、カーテンくらい開けないと。」

彼は困ったように笑い、俺を家の中に入れてくれた。中は暗く、床はひんやりと冷たい。冷房が効きすぎているせいだろうか、思わず身震いすらした。でも、今の俺の熱い体にはちょうど良くて少しばかり居心地が良かった。でもあとから寒くなりそうだと思い静かに腕をさすった。
彼の後ろ姿は悲しいようなそんな感じがした。いつになく細いその華奢な体つきにいつもちゃんと食べているのだろうかと心配になる。
リビングにつくと彼は冷たい麦茶を持ってきてくれた。

さ「ありがとう。」

ソファに2人で腰掛けると、彼は直ぐに横にかけてあった掛け布団を自分の体にまとった。

さ「冷房消したら?」

な「いい、さとみくん暑かったでしょ。ありがとね。来てくれて」

さ「いや、全然いいよ。久しぶりに2人で話すのも悪くないし。」

な「あはは、そっか」

か細い彼の声に俺は耳を傾けながら乾いた喉を麦茶で潤した。彼はそんな麦茶をただただ見つめていた。

さ「どうしたの?話、聞くよ」

な「……うん、…」

ゆっくりと口を開きいざ言おうとするがやはりどこか話しずらいのか、それとも、話すと思い出して余計に悲しくなってしまうからなのか、開いていた口をきゅっと閉じ掛け布団に顔を潜らせた。

さ「どうしたの、なーくん。大丈夫だから、」

彼の背中を摩ってやれば、彼は小さく頭を横に振った。

な「はなし、は、聞かないで……」

さ「…え?」

話を聞いてもらうために呼んだのではなかったのか?と疑問に思いながらもだんだん震えてくる彼の背中を俺は摩ることしか出来なかった。

な「ただ、そばに……いて…ほしい、」

途切れ途切れに発する彼の言葉に俺は相当辛いことがあったのだろうと思った。彼はいつも無理をする人だから。誰かが隣にいてあげないとダメなんだから。いつも俺のことを精一杯応援してくれる彼に今度は俺が彼を応援してあげたい。

さ「うん、いくらでもそばにいるよ」

な「……ありがとう、」

さらに深く掛け布団に顔を潜らせ、また静かに体を震わせる。

さ「大丈夫、大丈夫だから」

頭をポンポンしてやれば彼はまたもやか細い声で「ありがとう」と言った。
そして、少しばかり顔を上げ俺の肩に頭をのっけた。

な「さとみくんのゲームしてるとこ、見たい」

さ「お。俺の神プレイ見とけよ〜」

彼はふわふわと笑いながらさらに冷えてきたのだろうか、ぎゅっと掛け布団を握った。
彼の姿はまるで小動物のようで可愛くて思わず笑みがでた。

さ「寒いべ、もっとこっち」

な「さとみくんも被る?掛け布団」

さ「俺はいーよっと」

彼の背中に俺は手を回し画面が見やすいようにした。

な「お、第五人格〜、」

さ「なーくんもやる?」

な「俺は無理w」

さ「え〜、なーくん香水使うのとか上手かったけどな〜。」

な「あれはさとみくんが教えてくれたから」

さ「なーくんはやれば出来る!!俺が保証する!!」

な「なにそれ怖い」

少しずつ明るくなっていく彼に俺は安心しゲームを始めた。

どうでもいい話などをしているうちにとっくに時間は7時をまわっていた。
気づけば彼の被っていた掛け布団は、俺と一緒に被っていていつのまに、と笑った。彼の表情には笑顔が戻っていて俺もたまにはやるなぁと心の底から思った。
今日は、このまま泊まってもいいかなと思い彼に勇気を振り絞って聞いてみる。

さ「なーくん、俺今日ここに泊まってもいい?」

すると彼は目を見開きこちらを見る。
やはりダメだったのだろうか。彼には仕事だってある。だったら、俺は邪魔ではないのだろか。「ごめん、ダメだった、よね?」と彼に謝れば彼は慌てて

な「そんなことない!!違うの!!」

さ「違うって何が」

な「いや、さとみくんの方から言ってくれて俺嬉しかったから。」

彼の純粋な答えに俺は「そっか、なら良かった」と言い彼と顔を見合わせて笑った。

な「えっと、さとみくんとご飯一緒に作ってみたいな」

さ「お!いいね!何が食べたい?材料買わなきゃ」

な「オムライス!!」

彼はキラキラとした瞳でそう言うので俺は声を上げて笑った。「おい!!笑うな!!」と、彼が困ったように怒るので「ごめんごめん」と言いながらも俺は腹を抱えて笑った。オムライスがまさかでるとは思っていなかったから、俺はついつい笑ってしまった。

さ「ごめんごめんwオムライスね、買いに行こうか」

な「もー、早く行こう」

さ「はいよ」

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さ「んーと、あとは大事な卵くらいかな」
な「俺取ってくるからレジ行っといていいよ」
さ「おけ」
パタパタと走り去り、姿が見えなくなったかと思えば直ぐに姿を現し急いでこちらに卵を持ってきてくれた。「はやいはやいww」彼の方を見て笑えば彼もこちらを向いて笑う。

たまにはいいな、こうゆうのも。なーくんと一緒にいると居心地いいし、今度は2人で旅行にも行ってもいいかも。なーくんだけ、何故か心から信頼できるんだ。だから、今日のことみたいにまた困ったことがあったら俺を1番に呼んで欲しい、な

あとで、もう1回聞いてみよう。なにで悩んでたのかを。

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な「はい、お肉」
さ「はいよ」

2人で協力しながら買ったものを袋に詰めていく。
いつ聞こうか、何で悩んでたのかを聞くには…。やっぱり、まだ落ち着いてないはずだ。寝る準備をしている時に聞くべきだろう。少しでもなーくんのこと知りたいから、誰よりもなーくんのことを1番に知っていたいから。

すると、通知音が鳴った
さ「ん?」
自分のかと思い、ふとスマホを見ようとする。
な「あ、ごめん。俺」
さ「あぁ、おけ」
俺に背を向けスマホの画面を開く彼の姿があった。誰からなのだろうか。
そんなことを考えながら最後の卵を袋に入れ、レジ横にあるカゴ置き場にカゴを置いた。

さ「なーくん行ける?」

袋を片手に持ち、俺は彼の顔を覗いた。
な「さっ…」
さ「…なーくんどうしたの!?真っ青だけど…」
彼の顔には、今日1番に見た彼の顔よりもさらに暗く恐怖が顔に貼り付いているようだった。目には涙の膜がはってあり、今にも溢れそうなほどだった。
さ「大丈夫?なんで泣きそ」
??「なーくん見つけた〜」
な「あ…、」
さ「??」
さ「ころん、なんでお前ここいんだよ」
こ「さとみくんこそ、なんでなーくんと一緒にいるの」
さ「なんでって」
目の前には笑顔が張り付いているかのようなころんがいた。こんなころんは見たことがなかった。あんなに怖い笑顔は見たことがない。
すると、俺の袖にきゅっと力が入った。そちらに目をやればなーくんは俺の袖を掴んでついには大きな雫がなーくんの顔を濡らしていた。


さ「なーくん!?なんで泣いてるの!!」
なーくんの方に目を戻せばなーくんはただただ俺の袖を強く掴んでいた。
涙を拭ってやってもぼろぼろと零れ落ちてくる。
こ「なぁくんなんで泣いてんの」
気づけばころんはなーくんの目の前にいて、しゃがんでなーくんの顔を覗き込んでいた。

肩を震わせながら俺の袖に掴むなーくんの手の力が強くなっていくのがわかる。


さ「ころん、お前なんかなーくんにした?」


こ「…するわけないじゃーん!」
さ「……あっそう。んで、なーくんになんか用事?」
だいたい原因はころんだな。
でもなんで、ころんはなにかするようなやつには見えない。なんせ、なーくんに、だ。ころんはなーくんのこと大好きだし、そんな、大好きな人を気づつける様なやつには見えない。何も分からない、

とりあえず、早く退散した方が良さそうだ
こ「うん、用事〜。でもさとみくんがいるとちょっとな〜」
こ「二人で話したいかな〜」
光ひとつない瞳でなーくんを見つめるころん。なーくんの震えがさっきからとまらない。
さ「なーくん、さっきから震えてんだけどころん何かしただろ、」
ころんを目の前にして震えるなーくんに対し、笑顔を貼り付けて光すらない瞳をなーくんに向けるころんを見て、俺はさすがに何かしたのではないだろうかと思い、ころんにもう一度聞いた。
こ「しっつこいな〜、なんもしてないって」
こ「ね!なぁくん!!」
な「え、あ」
こ「ね」
な「ぅ、うん」
さ「絶対嘘だ、なーくん早く帰ろう」

強引に彼の手を引っ張りころんから逃げるように家へと走っていく。幸いにもころんは追っては来なかった。
こ「あはは」
こ「……マタネ」
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さ「はぁ、はぁっ…っ」
な「ふぅっ…っ…はっ」
さ「なーくん大丈夫!?」
全速力でなーくんの家へと走って帰り、両方とも息を切らしている。

玄関に入り、急いで鍵を閉めた。
「よか、っ…た」腰が抜けたのかその場に座り込んでしまった彼。俺も一緒にその場に腰掛けた。
さ「原因はころんかぁ、」
な「…うん」
さ「つらいなぁ、つらかったな」
彼を抱きしめてやれば小さい体が俺の腕の中にすっぽりと収まり肩で息をしながら泣きじゃくっていた。それをなだめるように、彼を俺の体に引きつけつつ強く抱きしめた。
相方の俺がもっと早く気づくべきだったんだ。そのせいで目の前の人がこんなにも苦しんでいたんだ。ごめんな、ごめん。
な「お腹、空いた…」
さ「うん、一緒に食べよ」
この件を解決するには1度あいつと話さなければどうにもならなそうだ。
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さ「おいし?」
な「ん、美味しい」
さ「良かった」
もそもそとオムライスを口に運ぶ彼を横目に俺はなにか言葉をかけてやりたいと思ったがどうにも言葉が詰まって言いたいことを言えない。
頭から浮かんでくる言葉はなーくんに対するごめんといった謝罪の言葉でしかない。俺がもっと早く気づけていればなーくんは苦しまずにはいれたのではないのだろうか
さ「……ごめんな…っ…」
な「……さとみ、くん?」
さ「ごめんなぁ、本当に、ごめんな…っ…」
な「…さとみくん、泣かないで、」
優しく背中を摩ってくれる彼の手の温もりを感じながら俺は涙を流した。
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ななもり。side
さ「俺、風呂先いいの?」
な「全然いいよ」
さ「それじゃあお構いなく。外出んなよ」
な「…うん。」
バタン
俺は2階の部屋で本でも読んどこうかな。
少しでもこの気持ちを落ち着かせたいし、さとみくんにもこれ以上迷惑はかけられない。

俺の家全体はシン…としていて、かすかなシャワーの音と俺の足音だけが残る。少し不気味に感じながらも俺は部屋の中に入り一冊の本に手を伸ばした。「これでいっか、」ベットの隅っこに腰掛け1人読書の時間へと入った。
な「……」
パラパラといった音が部屋に響き渡る。

このお話前にも読んだから他のにしよっかな〜。あ、たしか、前さとみくんから貸してもらった本があったはず。

な「あ、これかな」







































カチャ
な「…………ん?」
微かになったドアの開く音。
さとみくんかなと思ったが、まだシャワーの音が聞こえる。
その時俺の頭に浮かんできたのはころちゃんの顔で。

な「ぁ……」

俺は咄嗟に布団を掴み体に纏う。
やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて……
もう、来ないで…っ…















な「?」

あの微かな音から数秒音がしなくなる。
しんと静まりかえる俺の家の中ではもしかしたら何も無かったのではないか。





でもそれは、夢のまた夢で





























こ「なぁ〜くん?」



な「ぇ」

1階辺りから聞きたくもない声が聞こえてくる。ころちゃんだ。なんで、なんで、なんで、なんで、やめてくれ、もうやめてくれ、お願いだから、帰って……もう、やめてよ…


















な「お願いだから、もう帰ってよ…」

自分でも分かるほど、震えた声に俺は悔しくなる。俺の言葉は彼に届いたらしく彼が階段をのぼってくるのが分かる。
ガチャ
こ「なぁくん」
な「もう、帰って…」
こ「なぁくん」
な「もう………やめてよ…っ…」
耳を塞いでも、布団に顔を潜らせても彼は消えない。
ベットに重みがかかるのか分かる。
こ「ねぇ、なんで逃げるの」
な「こないで……」
こ「ねぇ!!」
頭に痛みがはしる。髪を持ち上げられ強制的にころちゃんと目を合わせられる。見たくもない顔を見て俺は咄嗟に彼を睨んだ
こ「なに、なんでそんな目で僕を見るの」
な「…っ…!!離して!!」




























さ「…なにしてんの」
な「さと、みくん…」
静かに扉が開いたかと思えば背筋が凍りそうなほどに暗い顔をしたさとみくんがいた。
さとみくんは俺の手を引っ張りベットから乱暴に下ろし抱きしめられた。
さ「でてけ」
こ「いやだよ」
出ていかないの一点張りなころちゃんは、俺の目をただ見つめている。そんなころちゃんが怖くて、近くにいるさとみくんの体温に安心してしまう。













こ「はは、」
こ「なんでさとみがなーくんの味方みたいな方向にいんの」


部屋にはころちゃんの声が重く響き渡る。
ころちゃんはゆっくりと俺から目線をはずしさとみくんの方を見た。


















こ「さとみくんだって、僕と同じなくせに」































俺は静かに視線をさとみくんの方へ向けた














あぁ、ころちゃんと同じ目だ
END

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