第11話

決意
61
2019/03/13 12:35
西崎 春斗
あっ!
おはよう菜乃花ちゃん!
橘 菜乃花
あっ…
おはよう…
西崎 春斗

どうしたの?
ぎこちない菜乃花の態度に、春斗は首をかしげた。
橘 菜乃花
私ね、自分の気持ちを確かめようと思って。
西崎 春斗
…自分の気持ち?
橘 菜乃花
うん。
西崎 春斗
そっか…。
じゃあ。
春斗は数秒黙りこむと、スッと手を差し出した。
西崎 春斗
これは、嫌?
そして、菜乃花の手を掴んだ。
橘 菜乃花
え…?
西崎 春斗
嫌?
菜乃花は首を横にふった。
西崎 春斗
じゃあ、これは?
そう言うと、菜乃花の指に自分の指を絡めるようにして、握り直した。
菜乃花は少し迷ったが、また首を横にふった。
西崎 春斗
じゃあ…
春斗は、ゆっくりと菜乃花に近づいていき、菜乃花の背中が壁につくと、トンっと壁に手をおいた。

そして、顔を近づけていき、菜乃花の唇に、そっと自分の唇を重ねた。
橘 菜乃花
やめてっ!
〈バンッ〉

菜乃花は、春斗を突き飛ばした。
西崎 春斗
…そう、だよね。
春斗はうつむき、もう、前を見ようとしなかった。
橘 菜乃花
…ごめん。
しばしの沈黙のあと、春斗が口を開いた。
西崎 春斗
良かったじゃん。
菜乃花は、戸惑い、尋ねた。
橘 菜乃花
…え?
相変わらず俯いたまま、春斗は答えた。
西崎 春斗
これで、はっきりしたでしょ?
橘 菜乃花
あ…。
西崎 春斗
おめでとう。
じゃあ。
そういい残すと、足早に去っていった。
橘 菜乃花
待って…!
菜乃花の声は虚しく、春斗に届くことはなかった。

ただ、寂しげに、廊下に響き渡っていた。



しばらくして、菜乃花は決意をしたように、屋上へ走っていった。
「そこに澄人がいる」

と、直感的に感じ取っていた。
橘 菜乃花
澄人っ!
雨宮 澄人
…菜乃花?
菜乃花の思った通り、屋上には澄人の姿があった。
橘 菜乃花
あのね、話があるの!
雨宮 澄人
…ちょうどいい。
俺も、あるんだ。
橘 菜乃花
…え?
雨宮 澄人
俺から先に、話してもいいかな?
澄人の、寂しげで、有無を言わせない雰囲気に、菜乃花はただ頷くことしか出来なかった。








雨宮 澄人
俺たち、別れよう。
橘 菜乃花
…え?
思いもよらない澄人の言葉に、菜乃花は言葉を失った。
雨宮 澄人
菜乃花はもう、俺のことを好きじゃない。
菜乃花が好きなのは、西崎だ。
「違う」

その一言が、言えなかった。
雨宮 澄人
そうじゃなくても、菜乃花は俺といるより西崎といる方が、幸せになれる。
あいつの方が、菜乃花を幸せにできる。
だから…。
一拍置いて、澄人は再び口を開いた。
雨宮 澄人
だから、あいつのところに行きな。
西崎のところに。
橘 菜乃花
…いや。
やっとのことで、声を振り絞った菜乃花は、震える声で、そう呟いた。
そして
橘 菜乃花
いやっ!!
叫んだ。

まだ、震えている声のままで。
橘 菜乃花
私が好きなのはっ!
澄人だけ!
さっき、そう確信したの!
雨宮 澄人
………。
雨宮 澄人
もう、無理だよ。
ごめん。
俺には、菜乃花を幸せに出来ないから。
橘 菜乃花
そんな…。
私、幸せにしてなんて、言ってな…
雨宮 澄人
ごめん。
菜乃花の言葉を最後まで聞かずに、澄人はその場をあとにした。
雨宮 澄人
(俺は、もう、決めたんだ。
菜乃花を幸せにできるのは、俺じゃない。
悔しいけど、あいつだ。
西崎だ。
西崎は、俺と同じくらい、菜乃花を想っている。
西崎になら…
俺は、もう、長くないから……。)
橘 菜乃花
(あぁ
もう、遅かったんだな。
バカだな私。
ほんとに…)
橘 菜乃花
ばかだよぉ~…
菜乃花は弱々しく、呟くと、その場で泣き崩れた。

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