悠斗は立ち上がった。
とまどっているとあきれたような声がかけられた。
春菜はごろりと反転し、悠斗を見上げた。
悠斗はむうっと唇をつきだし、「わかった」と小声で答えた。
春菜の体を起こし、手首を縛ったロープをほどく。細い手首が赤く擦れていた。確かにこれでは痛いだろう。
ロープをほどくと春菜は片手で赤くなった箇所を撫でた。
傷薬くらいなら常備してあったかもしれない。
悠斗はベッドを離れると机の引き出しを開けてみた。入っているのはメモ帳と筆記用具、それに携帯の充電器が何種類か。
念のためクローゼットも開けてみる。さっきロープを見つけたのはこの中だった。
悠斗が振り向いたのと春菜がベッドから駆けだしてドアに飛びついたのが、同時だった。
ドアノブにしがみついた春菜をひきはがす。
玄関で叫び出す春菜の口を手でふさぎ、悠斗は彼女をベッドまでひきずっていった。
かっと悠斗の頭に血が上った。かわいい顔にだまされた。おとなしそうな風情にほだされた。ちょっと好みの女だと思ったら、とんだ暴れ猫だった。
悠斗は春菜をベッドに押しつけ、ブラウスの胸元に手をかけた。はっと春菜が身をこわばらせる。
大した力をいれなくても、薄いブラウスはあっさりとボタンを弾き飛ばし、真っ白な胸があらわになる。
春菜が両手で悠斗の顔や胸を叩く。その両手を片手で掴み、ベッドに押しつけた。水色のブラをひっぱると、甘い香りが悠斗の鼻先に立ち上った。
春菜が泣きわめく。
悠斗は春菜の肩を押し、その体を裏返した。バックからやればどんな女もおとなしくなる、と以前須田が言っていたからだ。
だがその途端、今まで以上の悲鳴が春菜の喉から飛びだした。
悠斗は春菜のブラウスの襟を掴み、思い切り引き裂いた。
悠斗は動きを止めた。ブラウスの下、一緒に引き裂いた下着の下にあったもの。
左の肩から背中の中央にかけて、赤黒く盛り上がり、引きつれた大きな傷があったのだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!