第3話

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2022/08/09 11:00
春菜
──手が痛い
悠斗
あ?
春菜
手が痛いの。ほどいて
悠斗
だ、だめだ
 悠斗は立ち上がった。
悠斗
おまえ、騒ぐし
春菜
騒がないわ
悠斗
逃げようとするし
春菜
しないから
 とまどっているとあきれたような声がかけられた。
春菜
なによ、ヤクザのくせにただのOLが怖いの?
悠斗
な、なにぬかす
春菜
じゃあ
 春菜はごろりと反転し、悠斗を見上げた。
春菜
ほどいてよ
 悠斗はむうっと唇をつきだし、「わかった」と小声で答えた。
 春菜の体を起こし、手首を縛ったロープをほどく。細い手首が赤く擦れていた。確かにこれでは痛いだろう。
 ロープをほどくと春菜は片手で赤くなった箇所を撫でた。
春菜
薬、とか……ないの?
悠斗
あー、どうだったかな
 傷薬くらいなら常備してあったかもしれない。
 悠斗はベッドを離れると机の引き出しを開けてみた。入っているのはメモ帳と筆記用具、それに携帯の充電器が何種類か。
悠斗
バンソーコくらいあるかと思ったんだけどな
 念のためクローゼットも開けてみる。さっきロープを見つけたのはこの中だった。
悠斗
ないな。一晩くらい我慢しろよ。つか、ツバつけときゃ……
 悠斗が振り向いたのと春菜がベッドから駆けだしてドアに飛びついたのが、同時だった。
悠斗
てめっ!
 ドアノブにしがみついた春菜をひきはがす。
悠斗
ふざけんな!
春菜
だれか! 助けて!! 誰か――ァッ!
 玄関で叫び出す春菜の口を手でふさぎ、悠斗は彼女をベッドまでひきずっていった。
悠斗
このクソ女!
春菜
離して! 離せ!! バカ!
悠斗
黙れ! 逃げないって言ったくせに……!
春菜
なに言ってんのよ、ヤクザのくせに! ヤクザなんかと約束するわけないでしょう!!
悠斗
このやろう……!
 かっと悠斗の頭に血が上った。かわいい顔にだまされた。おとなしそうな風情にほだされた。ちょっと好みの女だと思ったら、とんだ暴れ猫だった。
悠斗
ヤクザなめんじゃねえ!
 悠斗は春菜をベッドに押しつけ、ブラウスの胸元に手をかけた。はっと春菜が身をこわばらせる。
 大した力をいれなくても、薄いブラウスはあっさりとボタンを弾き飛ばし、真っ白な胸があらわになる。
春菜
いやあああっ!
 春菜が両手で悠斗の顔や胸を叩く。その両手を片手で掴み、ベッドに押しつけた。水色のブラをひっぱると、甘い香りが悠斗の鼻先に立ち上った。
春菜
やめて! やめてええっ!
 春菜が泣きわめく。
悠斗
うるせえっ! 男をコケにしやがって!
 悠斗は春菜の肩を押し、その体を裏返した。バックからやればどんな女もおとなしくなる、と以前須田が言っていたからだ。
 だがその途端、今まで以上の悲鳴が春菜の喉から飛びだした。
春菜
きゃあああっ!
悠斗
静かにしろ!
春菜
いやあっ! 電気を……っ
 悠斗は春菜のブラウスの襟を掴み、思い切り引き裂いた。
春菜
電気を消してえええっ! 見ないでえええっ!
悠斗
……え?
 悠斗は動きを止めた。ブラウスの下、一緒に引き裂いた下着の下にあったもの。
悠斗
これ──
 左の肩から背中の中央にかけて、赤黒く盛り上がり、引きつれた大きな傷があったのだ。

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