俺の噂が誇張されて周囲に広がるのは本当に早くて
もちろんそうしたのは父親だった。
俺が食いちぎった指を証拠に、近所にあることないことを言いふらして回るのが日課らしい。
それを聞きながら眉をひそめる人達は
俺のことをこう呼ぶようになった。
「...あ、人殺しだ」
幼い子供は特に面白がって俺を見かける度にちょっかいを出してくる。
そんなのはまだかわいいもんだ。
一番タチが悪いのは、他でもない自分の父親で
もう何とも思わないほどに浴びせられた罵声も
まだ我慢出来る。
でも、これからどこまで暴走するのかわからない。
そのうち俺のことをまるで武勇伝を語るように
いろんな所で撒き散らすんだろう。
そうすれば俺はきっと外で生きることすらできなくなる。
近い未来を案じながら眠りにつく部屋は
昼だか夜だかわからないほど薄暗い。
きっと俺の死に場所はここだ。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。