まさかあの低能に限ってそんなことはないと思う…のだが、僕が見ている限り二郎はどうもモテるらしい。
アホ面な上に馬鹿なあいつのどこがいいのかわからないが、スポーツができる上にイケメンだから、だという。
彼女…か。
…本音を言えばそんなものはなんとなく作らないで欲しい。
僕にとって二郎は一応兄だし、一兄がいない時の話し相手にもなる。
それに………
小さい頃から1番そばにいてくれた、大切な人だ。
もし二郎に彼女ができたらなんとなく遠くへ行ってしまう気がする。
二郎には、僕のそばにいて欲しい。
小さい頃…施設にいた頃、僕は1人でいることが多かった。
もちろん、ひとりでいる僕に施設長も話しかけてくれたが、そういうときすぐに来てくれるのは二郎だった。
自分が友達と遊んでいても、僕がひとりでいるのに気づくと友達と遊ぶのをやめてこちらにきてくれた。
無理に自分の友達と遊ばせようとはせず、それからずっと一緒にいてくれた。
「二郎…」
僕は自分が二郎のことを考えてパスタを食べる手が止まっていたのに気づく。
あぁ、パスタ冷めちゃったなと思ったとき、頬が濡れていることに気づく。
「な、に、これ」
顔を服の袖口で拭う。
……もしかして僕、泣いてた?
僕はそんな自分に戸惑い、手で顔を叩く。
やめろ、昔のことを思い出して泣くなんて、恥ずかしい。
僕は深呼吸をすると、気を取り直してパスタを口に入れる。
さっき泣いたことは、金輪際誰にも言わない、と心に決めた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!