マコは、屋上に行こうと
非常階段の扉に手をかけた。
(もしかしたら、まだ大事な話をしているかも…)
たった今走ってきた廊下を逆戻りして、
再び父の部屋の前にやってきた。
中から談笑する声が漏れている。
マコは、さっきと同じように扉にそっと耳をあてた。
足音がこちらに向かってくる。
マコは急いで近くの書斎に入った。
扉が閉まり、足音は真っ直ぐ書斎の前を通り過ぎた。
ほっと胸をなで下ろし、
ゆっくり部屋を出て自分の部屋に戻った。
ベットに寝転がって、天井を見ながらマコは考えていた。
さっきの話は本当に起こるのだろうか。
お金を払えば他人の未来を変えることが
出来るのだろうか。
まずは大学の楽しさを伝えて……
わたしが専攻している分野を説明して……
友達もたくさん出来たと伝えて……
それから……
この時間に電気がついているのに、
中からは返事は無い。
メイドはそっと扉を開けて中を覗いた。
マコはベットでぬいぐるみを抱き締めながら眠っていた。
時折なにか寝言を言っているようだ。
メイドはマコに毛布を掛けて、ゆっくり部屋の外に向かう。
電気を消し、静かに扉を閉めた。
『…ま、あさ…』
『おじょ……ですよ…』
目を開けると、部屋が明るい。
朝になっている。
メイドは会話しながらもテキパキと朝食の準備を終わらせ、部屋から出ていった。
マコは何気なくテレビを付けた。
どの局のニュース番組も、何やら慌ただしい。
昨日父の部屋で聞いた話と、
まさに全く同じことが起こっている。
マコは昨日の話を思い出していた。
画面に出された警察署の電話番号をさっとメモし、
携帯を開いた。
☏
相手が半分呆れているのが声色だけでも伝わってくる。
マコも、『思い出せないんじゃ意味ないよね…』と諦めかけていた。
が、その時。
マコの記憶が急にぱっと鮮明になった。
☏
通話を終えると、
マコは朝食を口の中に詰め込んで、ベットの下からリュックを出した。
その中に必要なものをポンポン詰め、
部屋を出た。
昨日の夜、寝落ち前にマコが出した答えは、
『この家から逃げること』だった。
物語からも、この家からも逃げることをマコは選んだ。
(後編に続く)
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。