コウは、近くの非常階段の扉が半開きなのに
気が付いた。
扉には、上に行くと屋上に出られると書いてある。
階段を1番上まで上り、勢いよく扉を開く。
そこには、見慣れたマコの姿。
コウは駆け寄った。
コウは思わず息を呑んだ。
その奥にもう1人、見慣れた人物がいたからだ。
何となくは分かっていたものの、
そう尋ねたコウの声は悲しく掠れていた。
彼は、いつも職場で見せる顔とは真逆の表情で
コウを睨んだ。
それはもう、コウが知っているボスではなかった。
彼はマコの方を向いた。
すると、ボスは一瞬口角を上げてコウの目の前まで歩いてきた。
今度はコウがニヤリと笑って、さらにボスに顔を近づけた。
振り返ると、ノートを強く抱きしめながら立つマコがいる。
コウは、自分が使った特別な香水の瓶をマコに
投げた。
マコはしっかり受け取って大きく頷くと、
階段を駆け下りて行った。
コウはバレないように、ポケットの中で携帯のボタンを押した。
(誰かの電話に繋がれ……)
すると、ポケットから小さく「もしもし、ニロです」と繰り返し聞こえた。
ニロに考えが伝わったのか「了解です」という返事の後、ポケットからの音は無くなった。
すると、彼はニヤッと笑った。
コウはポケットから携帯を取り出した。
電話口のニロはとても楽しそうだ。
ボスは目を見開いてしばらく固まった。
沈黙が続く中、電話の向こうでなにやらニロが焦っていた。
コウは思わず苦笑いを浮かべる。
言ったそばから、非常階段を登るたくさんの足音が聞こえてきた。
コウは、暴れるボスを押さえる。
ボスは、委員に両腕を掴まれて連れていかれた。
暴言や、「離せ!」と言った言葉が聞こえてくる。
プツッと電話を切り、コウは下を見た。
玄関前では、ちょうどボスが抱えられて車に乗せられるところだ。
風に乗って「離せ!何も悪いことはしていない!」という声が聞こえてくる。
ため息をついてから、非常階段の扉を開く。
頭の中では、今までボスに掛けてもらった
たくさんの言葉がフラッシュバックしていた。
階段を降りるコウの足はずしんと重い。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。