第8話

"End"内の犯罪者?
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2018/12/04 15:51
コウは、近くの非常階段の扉が半開きなのに 
気が付いた。


扉には、上に行くと屋上に出られると書いてある。
コウ
屋上か







階段を1番上まで上り、勢いよく扉を開く。

そこには、見慣れたマコの姿。
コウは駆け寄った。
コウ
マコ、こんな所で何やってる…






コウは思わず息を呑んだ。
その奥にもう1人、見慣れた人物がいたからだ。




コウ
どうしてあなたが……?
何となくは分かっていたものの、
そう尋ねたコウの声は悲しく掠れていた。





ボス
どうして?
彼女が私のノートを盗んだ、私はそれを見つけた。それだけだ。



彼は、いつも職場で見せる顔とは真逆の表情で
コウを睨んだ。


それはもう、コウが知っているボスではなかった。


コウ
あなたは……"End"の一員としてありえないことを………
ボス
なんの話?
コウ
先程、社長室に入り、ある書類を見つけました。そこには、
「藤堂麻子様の生涯分"End"変更」と「山本涼香様の1"End"変更」と書かれていました。
ありえない金額も一緒に。
ボス
それが?
コウ
………確認したところ、藤堂麻子の"End"は酷いものに書き換えられ、山本涼香の担当は私なのに"End"は変わっていました。
ボス
藤堂麻子?
彼はマコの方を向いた。
ボス
お嬢さん、まさか本名を喋ったんじゃないだろうね?
マコ
喋ってないですよ!
ボス
じゃあなぜコイツが知ってる?
コウ
マコの実家であるこのビルに向かうよう、情報が届きました。
そしてここは藤堂財閥。
もうそれで名字は分かるでしょ
ボス
………………
コウ
"担当者 B"って、ボスのことですよね?


すると、ボスは一瞬口角を上げてコウの目の前まで歩いてきた。
ボス
俺がそのBだろうがとにかく今は関係ない。
そのお嬢さんは"本名を話さない"という契約に違反した。
約束通り、彼女も、彼女の家族も"終わり"だ。


今度はコウがニヤリと笑って、さらにボスに顔を近づけた。
コウ
今、ノートはあなたの手元に無いんですよねー
振り返ると、ノートを強く抱きしめながら立つマコがいる。


ボス
なら、捕まえるまで……
コウ
階段で逃げろ。
あと、これ使え!
コウは、自分が使った特別な香水の瓶をマコに
投げた。


マコはしっかり受け取って大きく頷くと、
階段を駆け下りて行った。

ボス
待て!!!
コウ
ボス、ストップ!
ボス
なんで君はいつもいつも邪魔ばかり…
コウ
そんなにお邪魔しましたっけ?
コウはバレないように、ポケットの中で携帯のボタンを押した。


(誰かの電話に繋がれ……)
ボス
山本涼香の誘拐の件。
君が"End"を書き換えるのが予想よりだいぶ早かったせいであのお嬢さんが行動するのが早まった。

おかげで藤堂の社長に怒鳴られる羽目になったんだぞ
すると、ポケットから小さく「もしもし、ニロです」と繰り返し聞こえた。
コウ
ボス、少しお金の話をしましょう。
メモでも残してください。
ニロに考えが伝わったのか「了解です」という返事の後、ポケットからの音は無くなった。
ボス
なんで私がメモなんか取らなくちゃいけない。
なんだよ、お金の話って
コウ
あの資料では、"End"に100,030,000円が振り込みか何らかの形で収入として入るはずでした。
でも、"End"ではお金を払えば"End"を変えられるというサービスはやっていません。
ボス
回りくどい。
ハッキリ言いなよ
コウ
ボス、あなたはその100,030,000円を私的に受け取ったのではありませんか?
ボス
さあ?どうだろう?
コウ
回りくどいですよ、ボス
すると、彼はニヤッと笑った。
ボス
しょうがないなぁ……
まあ、ありがたく頂いたよね
コウ
割とあっさり認めるんですね
ボス
あ、このこと誰にも言うなよ?
言ったらお前の人生の"終わり"が来るぞ?
コウはポケットから携帯を取り出した。






コウ
…………バッチリか?ニロ。
ニロ
はい、バッチリ"メモ残し"ましたー!
電話口のニロはとても楽しそうだ。
ボス
なんの話だ…
コウ
今の会話、念の為"メモに残し"て置いたんですよ
ボス
メモに残す……なんの隠語だ
ニロ
"録音しておけ"ってことですよね?
あれ、これボスが考えたんじゃないんですか?
コウ
そう、あなたが考えた"録音しておけ"っていう意味の隠語ですよ?
ボスは目を見開いてしばらく固まった。
沈黙が続く中、電話の向こうでなにやらニロが焦っていた。
コウ
どうした?
ニロ
あれ?……コウさん、間違えて、録音した音声をリアルタイムで取締委員会に転送してたっぽい…です……
コウ
それは……
コウは思わず苦笑いを浮かべる。
コウ
いい仕事、したじゃん?


言ったそばから、非常階段を登るたくさんの足音が聞こえてきた。

コウは、暴れるボスを押さえる。
取締委員会
ご苦労様です。
あとはこちらで。
コウ
後はお任せします
ボスは、委員に両腕を掴まれて連れていかれた。

暴言や、「離せ!」と言った言葉が聞こえてくる。



ニロ
コウさん、大丈夫ですか?
コウ
大丈夫って、何が?
ニロ
ボスのこと、結構信頼してましたよね?
コウ
ああ、でも今じゃ犯罪者だからねー
………じゃ、また後で
プツッと電話を切り、コウは下を見た。

玄関前では、ちょうどボスが抱えられて車に乗せられるところだ。


風に乗って「離せ!何も悪いことはしていない!」という声が聞こえてくる。


コウ
はぁ…………戻ろう
ため息をついてから、非常階段の扉を開く。


頭の中では、今までボスに掛けてもらった
たくさんの言葉がフラッシュバックしていた。




階段を降りるコウの足はずしんと重い。

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