「そういえばおまえ、他の奴らの間で胸がないと話題になっていたぞ」
学校が終わって宿儺の家に遊びに来ていたとき、突然宿儺はそう言った。
驚いて宿儺を見ると、彼は自分の椅子に座って身体をわたしの方へ向けていた。片膝を立ててその上に肘をつき、にやにや笑いながらわたしを見下ろしている。
「そ、そんなことないよ! ちゃんと、ある……」
「ふうん?」
疑うような返事をしてから、宿儺はわたしの顔から視線を下げた。しかし、すぐに鼻で笑った。
「あるようには見えんが」
……なんてデリカシーのかけらもない人間なんだろう。
素直で優しい性格をした悠仁の双子であることが信じられない。
「宿儺って、ほんと最低」
言いながら、手の届く距離にあった宿儺の枕を彼の顔面に向かって投げつける。だが、難なく片手でキャッチされてしまった。
「はあ、勝手に言っていろ。……だがまあ、実際に見てみないとわからんが」
そう言いながら宿儺は、にやりと笑った。
「……じゃあ、見てみる?」
上目遣いで宿儺に問いかけた。最初は、宿儺を困らせるためだけのつもりだった。
だが宿儺は、少し驚いたような表情を見せただけで、すぐに平静に戻る。
「……本気か?」
強がりはやめろ、とでも言いたげな様子で宿儺は、ふう、と呆れたように息を吐いた。
そんな宿儺の態度に、元来負けず嫌いの性分であるわたしは、どこかカチンときてしまった。だから、ムキになって。
「……ほんき」
「なに?」
それに何より、密かに抱いていた宿儺に対しての淡い恋心による、見られたい、触れられたいという気持ちもあった。というより、こちらが本音だったのかもしれない。
わたしは顔をあげてから、もう一度同じ言葉を繰り返した。
「ホンキだよ」
それから先のことは、いまでもはっきりと覚えている。
触れてくる大きな手、耳をねぶる熱い舌、わたしを見据える獣のような瞳──。
そうしてわたしたちは、身体の関係を持つようになった。宿儺の家やわたしの家、さらには学校でも何度もヤったことがある。
でも、キスだけはしたことがない。わたしからしたこともなければ、宿儺からすることもなかった。
まあ、当然と言えば当然なのかもしれない。
セックスは性欲を満たすためという理由があるが、キスをするのには理由がなかった。
恋仲でもないわたしたちが、愛情表現であるキスをするのは何か違うということを、お互いに理解していただけだったのだ。
そんな中学2年生の頃の自分を思い出し、思わず自嘲気味に笑った。
……ほんと、バカだなあ。