気付いたら、暗闇にいた。
進んでいるかも分からない道を何となく
歩いていると、どこからか声がした。
『助けて。』
目の前には、女の子がいた。
女の子がうずくまって、
『助けて。』
と言っている。
『どうしたの?』
俺は話しかけてみた。
だが、返事はない。
ただ、
『助けて。』
と言っているだけ。
気になったから、女の子の長い髪をそっと上げて
顔を見る。
女の子の顔は──────
自分の部屋のカーテンから光が差す。
どうやら、朝が来たらしい。
それにしても、何だ?今の。夢、なのか...?
俺は片岡楓。中学2年生。
学校では、浮いている。
別に、いじめとかはないから、嫌とかは思わない。
けど、学校はめんどくさい。
俺は、ベッドから起き上がり、テレビをつける。
『本日、警視庁より3年前の○○町の事件が────』
○○町...?それって、隣町じゃ...
『あぁ、それって確か、町が灰色の大きな壁で
覆われた謎の事件ですよね。』
『はい。それが、3日間で町の人が全員死滅した
とのことです。』
『えぇ⁉それって、6年前にもありましたよね?』
『はい。』
『しかし何故、警視庁は今ごろその事件を発表して
何故、何も動かないのでしょうか...』
『それについては、今、マスコミが─────』
テレビを消す。
俺には関係ないことだから、どうでもいいや。
学校、行くか。
─────────────────────────────────
朝の学校とは、何でこう、うるさいんだろう。
うるさくて、頭がガンガンする。
朝のニュースって、あれか...?
確か、隣町の...
は?何で俺?
あいつの言ったことは、嘘じゃない。
本当だ。
俺は、実の親を殺した。
生きるために。
小学生の時、親が俺を殺そうとした。
親は、自分の息子に包丁を向けて、こう言った。
『死ね。』
その目は、冷たかった。
本当に殺そうとしている目だった。
親は、自分の息子めがけて包丁を降り下ろした。
だが、血を流したのは、俺の親だった。
気付いたら俺は、血まみれになった包丁を
握っていた。
殺したんだ。この手で。自分の親を。
自分を守る為とは言えど、俺は罪を犯した。
だから、クラスで浮くのは仕方のないこと。
クラスメイトはそう言って、教室の窓の外、
つまり、校庭の方を指差した。
俺も、何となく、校庭を見る。
そして、一人の女子生徒を見つける。
その顔は──────
夢の中の、女の子によく似ていた。
何故かは、分からない。
けど、似ていた。
話してみよう。このことを。あの先輩に。
そういえば、あの先輩の名前って何だろう...
『花江結だよ。』
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。