もう、終わりだ。
突然、咲田が私の前髪をそっと上げて
優しく額にキスをした。
咲田はそう言って、悲しそうに笑う。
そして、私の腕を強く握った。
ドン!
咲田はそのまま、掃除用具箱から離れた所に
私を突き飛ばした。
どうして?
私はそう思った。
だから、咲田の方を見た。
見なければ、良かったのかもしれない。
咲田の肩が、鬼に食べられていた。
咲田は、無理して笑っていた。
どうしよう。
咲田を、助けないと...
でも、誰が...?
今まで、咲田に助けられてばかりだった私に、
何ができる?
私は...
何もできない。
でも、このまま逃げていいの?
咲田が死ぬかもしれないのに?
そんなの、絶対に嫌だ。
でも、何でだろう。
脚が、震えて動かない。
どうして?どうして、震えてるの?動かないの?
早く、助けに行かないと...
咲田は、強い眼差しで、そう言った。
咲田はそう言って、大きく息を吸うと、
大きな声ではっきりと、そう言った。
私は走った。
咲田に背を向けて。
振り返らないように、一生懸命、
走った。
咲田の言葉と、その眼差しに動かされた。
全力で、走った。
咲田の思いを大切に抱えて。
本当は、振り返って、咲田の所に走って行きたい。
でも、咲田の思いを踏みにじってはいけない。
走れ。走れ。どこまでも。
私に咲田の記憶が有る限り、走り続けろ。
咲田の思いに答えるんだ。
泣いて、叫んで、走れ。
その足が有る限り、ずっと、ずっと、ずっと。
泣いて、叫んで、走るんだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。