戸田先生に言われ、私と大野は第二体育館で
練習することとなった。
言われた通りに座ると、大野が壁に向かって
いろんな打ち方を見せてくれる。
7、8分くらい見てると、私の疲れ切っていた
体も回復して、少しは動きやすくなった。
どんどん説明していく。
何回かそのスピードについていけなかったが
出来る限りのことは覚えた。
最後に試合形式で練習してみようということ
になり、私は大野と向かい合う。
大野は女子と男子とじゃ力の差があるから、
利き手ではない方で、私は利き手で。
私は何回も負けたけど、途中で1回だけ大野
のスマッシュを止めることが出来た。
大野は無言でシャトルを真剣な目で追い続け
ていた。
少し失敗して、相手が打ちやすいシャトルを
返した。
すると、大野がいきなり…
ボソッと呟き、ラケットを利き手に持ち替え
ると、強烈なスマッシュを打った。
痛いのは脛でも、お腹でも、背中でもない。
物凄く痛いのは左目。
スマッシュは私の左目に直撃したのだ。
私は持っていたラケットを放り投げ、その場
にしゃがみ込み、目を押さえる。
私の悲鳴に近い叫びとラケットを投げ捨てた
音が響いたのかスグに戸田先生と他の部員の
人達がやってきた。
戸田先生の怒鳴り声が体育館に響く。
部員達は目を押さえている私を見て笑う。
泣くつもりは無いのに、左目だけ涙が溢れていた。
戸田先生の放った一言が私を貫く。
…いい加減にしてって…心配しないの?
まず、何で大野は利き手で打った?ハンデが
ないと練習にならないの分かってるよね?
その瞬間、戸田先生と大野に復讐をしてやりたいと思った。
私は左目から勝手に溢れる涙を無視すると、
無言で立ち上がり、体育館を出る。
背中に当たる先生の怒鳴り声も無視して、私
はそのまま帰ろうと歩いていた。
ボソッと呟くと、早歩きで歩く。
すると、少し歩いた時…
後ろから声をかけられ私は立ち止まった。
話しかけてきたのは、如月リクト君。
この前、転校してきたばかりの転校生。
何か素っ気ない態度が多くて、一匹狼の印象
が私の中では強い。
如月君は私のリュックを持っていた。
私はリュックを受け取ると背負う。
私は願望よりも復讐と言う言葉に反応した。
楽しいのかいつも真顔の口元が少しだけニヤ
けているような気がした。
如月君はそのまま私の前から立ち去る。
”黒い彼岸花”なんてないに決まってる…
そんなことを思い、私は再び歩き出す。
しかし……
いつもの帰り道。
帰る途中に通る芝生公園に咲いていた。
如月君が言っていた通りの”黒い彼岸花”が…
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。