生きる意味なんて人それぞれだ。
1回きりの人生を頑張って楽しみたい人。
愛する人と共に過ごしたい人。
何かをすることに人生をかけている人。
誰かのために頑張るのが嬉しい人。
俺の生きる意味はなんだろう?
他の人みたいに友達はいない、何かをしても
楽しいとは思わない。
俺はただ…ただ人生という時間が進んでいるだけだった。
何も目的もなく、生きたいとも死にたいとも
思わず、考えたら明日がきて、また考えたら
次の日がやってきて、そうして何となく生き
続けてるだけ。
だから、俺が消えたところで何も変わ ───
考え事をしていた間に、授業は終わったのか
教室には俺とトウカしかいなかった。
少し急いで荷物をまとめると、トウカと共に
学校を出た。
見た目は黒髪ロングとパッと見女子感が強い
けど、男口調。でも、絵を描くのが好きとか
そう言うところが少し面白かった。
デパートに着き、トウカがいろんなものを、
真剣に見ながら選んでいく。
俺はその横で新しい物探しでもしていた。
何だ?何か少し焦げ臭いような…
すると突如、放送が始まった。
[ただいま、F6で火災が発生しました。館内
のお客様は店員の指示に従い、速やかに避難
してください。]
ここはF5、出火場所のスグ下の階。
どうりで臭いわけだ…。
店員が避難の案内を始めるが、既にフロアは
大パニック。
風船を手に持ち、1人で泣いている少女。
人を押しのけて避難口に向かう学生。
火災に怯える妻の手を握る老人。
俺達はそう言うと、店員の指示に従い、避難
経路から下の階に向かった。
客は全員、外に出るようにとの指示。
すると、若い女性が叫ぶのが耳に届いた。
子供が迷子になったのか、可哀想に…
…………って、あれ?
俺は、再度F5を思い出す。
『風船を手に持ち、1人で泣いている少女。』
そのことにトウカも気付いたのか、非常階段
からF5に向かった。俺もトウカのあとを追いかける。
走ったことによりスグに着いたF5。
既に火が回っていて、奥からは幼い子の泣き声が聞こえる。
ポツリとそれだけを言うと、トウカは泣き声
のする方へと走って行った。
女の子とトウカを置いていきたくはない。
結果、俺はF5に繋がる非常階段で待機。
少しすると、奥の方からトウカがあの女の子
を抱えてこっちに走ってくるのが見えた。
無事で良かった……。
そんなことを思った次の瞬間…
天井を支える柱が崩れ、2人の頭上に天井が
落ちてきた。
ガッシャァァアンッ!!!
ブワッっと熱風が俺の方にくる。
女の子の泣き声が更に大きくなった。
しかし、その声はこっちに近付いてくる。
俺の語尾が掠れる。
だって、トウカがこっちに来なかったから。
しゃがみ、女の子に目線を合わせ聞くと、
女の子は少し泣きやみこう言った。
つまり、トウカはこの子を庇って、自分自身が犠牲になったってことか…?
砂埃が晴れ、下半身を天井に押し潰されて、
身動きが取れないトウカの姿が見えた。
すると、トウカは大声で……
そう言って、笑った。
呆然と立っていると、女の子が非常階段の扉
を閉めた。
バアアァァァァァァアンッ!!!!
脳内にまで響いた大きな音。
その音に女の子は「キャッ!」と悲鳴をあげ
俺の足にしがみついた。
爆発…嘘だろ……?
しばらくその場に立ち止まっていたが、我に
返ると、女の子を抱えて急いで非常階段を
駆け下りた。
その時の俺は本当に、トウカが残した言葉の
意味が分からなかった。
F1まで降りた頃には、消防車が到着。
消火活動を始めている。
少女を母親のところに連れて行くと、何回も
頭を下げてくれた。
普通なら「無事で良かったです。」と快く
対応するだろう。
だけど…
少女も俺も、生き延びたけどいい気分には、
あまりならなかった……
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!