あぁ、今日も地獄の一日が始まるんだ…
私、水樹ヒナはそう思いながら正門を潜った。
何処にでもありそうな普通の学校。
何処にでもありそうな普通のクラス。
何処にでもありそうな普通の日常。
それが訪れるとずっと信じていた。
なのに…
遠巻きにされ、独りの私。
教室にある私の机には堂々とカッターナイフが突き刺さって、マジックで落書きされている。
このくらいならまだマシだよ。
イジメとかマジでどうでもいい。
私は知っている。
いじめよりも悲惨なことがこのクラスで毎日のように行われていることを。
みんなが私の命を狙い……殺そうとしている。
カッターを引き抜くと席に座った。
普通なら雑巾で落書きを拭くんだろうけど、そんなことはしたところで無駄だと理解してるからやるだけ時間が勿体ない。
ほんとこの状況、どうにか出来ないかな…
………私が殺される前に。
教室の前のドアが開き、男子と女子が1人ずつ教壇に立った。
その内の1人を見て、私は目を見開く。
トウカちゃんは私の知り合いで私の相談をいつも聞いてくれる優しい友達だった。
でも、学校は違ったから私は学校にいる間だけは自分でなんとかしないとって思ってたけど…
同じならきっと何かが変わるかも?
…………ううん、現実はそんなに甘くなかった。
昼休み、1人でお弁当を食べる私。
トウカちゃんは私を殺しにくるクラスのみんなと仲良くお弁当を食べていた。
お弁当を食べるだけじゃない。
私を他人のように接し、全く喋ってくれない。
いつもは私の相談にのってくれたのにその時のトウカちゃんとまるで別人だ。
もう1人の転校生である如月君は如月君で誰とも話そうとせずに窓際で本を読みながら持って来たおにぎりを食べている。
椅子の背もたれによっかかりながら私のことを見たトウカ。確実に目が合っている。
助けて。殺される。
そう言いたくても言えなかった。
こんなことを目を合わせた状態で言われたら。
私はお弁当をほって、教室を飛び出た。
何処に行けばいいのか分からない。
どこなら人がいない?中庭?校庭の端?鍵を壊す勢いが私にあるなら屋上?
ガンッ!!……ガンッッ!!!……バキッ!
体当たりするように何回かぶつかって屋上への扉をこじ開けるとバレないように扉を戻す。
強い風が吹き荒れ、髪がふわりと浮く。
私はただ上を向いて涙が零れるのを我慢した。
あんな子だとは思わなかった。
あんな面と向かって悪口を言うような子じゃないって勝手に思い込んでいた。
今、心にある気持ちが憎しみなのか悲しみなのか私には分からない。
でも、辛いことだけは確かだった。
最後の希望だったトウカちゃんに捨てられた私は?
何?何なの?
トウカちゃんに見捨てられたってことは……
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!