第22話

努力が報われない少女 〜5〜
506
2018/10/17 11:01
完全に燃え尽きた体育倉庫からは戸田先生の
焼死体以外は何も出てこなかった。
警察は捜査が難航し、結局は戸田先生が電気
がつかないことに気がついて、ロウソクで、
代用したけど燃え移ってしまった。


そんな風に解決された。
バド部は試合に近かったから急遽、代わりの
先生が顧問を務めることに。
私は試合の前日に、大野に復讐をすることを
決めていた。
試合前日までの数週間は真面目に練習する。
まぁ…私の努力は報われないからしたところ
で意味はないんだけどね。
やっと来た試合前日。
最後の練習後、私は大野に待っててくれと
頼まれていた。
レギュラーの大野は最終下校ギリギリまでの
練習だけど、私のようなレギュラーじゃない
人は早く練習が終わっていた。
別に今日、実行するから好都合だよね…


そんなことを思いながら、正門の前で大野を
待っていた。
最終下校が過ぎ、少しすると、道具を持った
大野が出てきた。
大野 レン
ごめん、遅れた。
柏谷 ユイ
…別にいいよ。
大野 レン
疲れてると思うけど、ちょっと
付き合ってくれ。
それだけを告げ、歩き出す大野。
私は少し不審に思いながらも後を追った。
着いたのは近くの河川敷。
河川敷に着くなり、大野は私にこう言った。
大野 レン
…柏谷が戸田先生殺したよな?
柏谷 ユイ
…どういうこと?
いきなり言われ、私は少し戸惑う。
大野 レン
俺、見たんだ。柏谷が戸田先生
と体育倉庫に行って、先生が中
に入ったところでドアを閉めて
何かしたら火がついたとこ…
柏谷 ユイ
……。
バレていた…?
もし、そうなら何で今になって……
大野 レン
違うか?
柏谷 ユイ
…合ってる。まぁ、ここで大野
も死ぬから変わらないけど。
私はそう言い、ポケットに手を入れライター
を取り出した。
大野 レン
………そうか。
柏谷 ユイ
え…?
何故か大野は私に深々と頭を下げた。
大野 レン
別に俺を殺してもいい。でも、
先に謝らせてくれ。
柏谷 ユイ
い、言ってる意味が分からない
んだけど…
大野 レン
お前が戸田先生にいじめられて
ること、知ってたんだ。だけど
見なかったことにして、いつも
見捨ててた。
柏谷 ユイ
……。
大野 レン
俺がスマッシュを目に当てた時
謝ろうとしたんだ。でも、先に
先生が来て…
柏谷 ユイ
そんなの言い訳じゃ…!
大野 レン
ああ、言い訳だ。その日、練習
が終わった後、先生に言った。
いじめるのやめないと俺は退部
します、って。
柏谷 ユイ
全く意味がわからないよ……
何で大野が抜ける話を?
本っ当に意味が分かんない…
大野 レン
それからいじめは無くなった。
けど、柏谷は許せなかったんだ
よな?戸田先生を、俺を。
大野が申し訳なさそうに私に話し続ける。
大野 レン
…だから、柏谷が殺したいなら
俺を殺してくれ。
手に持っているライターが震え始める。
柏谷 ユイ
何で…っ…!?
何で私は躊躇してるの…!?
大野は…コイツは…私を見殺しにした…!!
何故か、目からポロポロと涙が溢れてきた。
私が泣いていることに気付いたのか、大野が
不思議そうな顔をする。
大野 レン
柏谷……泣いているのか?
柏谷 ユイ
私には…殺せない…っ…!!
大野は私にずっと謝ろうとしてくれた。
戸田先生にいじめをやめるように言った。


そんな人を私は殺すなんて無理だ…。
すると…
如月 リクト
…完全に復讐心が消えたな。
失敗だ、ユイ。
そう如月君の声が背後から聞こえた。
私は振り向く。
その瞬間、私は走馬灯を見た。
練習を頑張っていた私。
いつも応援してくれた両親。
最初は励ましてくれていた戸田先生。
そして、教えてくれた大野…。
ごめんね、大野。殺そうとしちゃった……
胸にチクリと何かが刺さる。
すると、私の意識は遠のいていった……
















如月 リクト
……。
ユイの胸には”黒い彼岸花”が刺さっている。
大野 レン
…如月。柏谷に何をした。
如月 リクト
まぁ、約束を守ったんだ。復讐
に失敗すればユイの命を貰う。
大野 レン
命を貰う…?
地面に伏せているユイに近くに来たレン。
如月 リクト
…そろそろだ。
大野 レン
……。
ユイに刺さる”黒い彼岸花”の花弁は、徐々に
白く染まり、やがて、白い花弁を持つ彼岸花
に変わった。
大野 レン
如月、お前は何者だ?
如月 リクト
俺は俺だ。まぁ、人間じゃない
けどな。
大野 レン
柏谷は死んだのか?
如月 リクト
ああ、死んだ。
大野 レン
……。
如月 リクト
ユイは優しい子だったからレン
に対する復讐心が消えた。他の
やつだと謝られても殺すやつも
いるからな。それだけを知って
おけばいい。
大野 レン
そう、だな…。
曖昧な返事をするレンを置いて、俺はその場
から歩き去った。
あの”黒い彼岸花”は血を好む。
血を吸えば、花弁は真っ白に染まる。
真っ白になるのは、その者の魂まで吸収して
しまうから。
つまり、ユイは彼岸花になったんだ。
普段なら俺が殺す。
だけど、たまに気に入った仕方で復讐をした
やつが失敗したら、ああやって”黒い彼岸花”
を刺して、白い彼岸花にしている。
惜しかったな、ユイ。
残念だ。せっかく、あと少しだったのに…
……けど、原因から方法は面白かったぞ。
俺は口元に薄らと笑みを浮かべると、人目のつかない場所で元の姿に戻った……

プリ小説オーディオドラマ