第38話

静かな世界に住む少年 〜3〜
385
2018/11/29 20:38
耳が聞こえなくても話しかけてくれてたんだ…。
野瀬 ハヤト
…っ…ぁ……。
口から息は出るのに、肝心の"声"が出ない。
それが願いを叶える時の天使との条件だったことをスグに思い出した。
不思議そうな顔をする母さん。
母さん
どうしたのかしら……。
心配する母さんに手話で「大丈夫だよ」と伝えて、自分の部屋へ向かった。
スマホで平仮名とその読み方を調べ、聞き、記憶していく。
明日から…僕の人生は変わるんだから。
徹夜するような勢いで調べ、覚えていくと、窓の外が明るくなる頃には全て覚えた。
これでもう音を…声を聞ける!


朝食を食べ、音の聞こえるニュースを眺め、そして、リサが来るまで部屋に戻る。


すると、少しして…
母さん
ハヤトー
母さんの声が聞こえ、コンコンと音がする。
まだ僕の耳は聞こえないと思っているはず、毎日、聞こえなくてもノックしてくれてたんだ…
少し感動してると、母さんが入ってきた。
母さん
リサちゃんが迎えに来たわよ。
母さんが話しながら紙に書こうとした。
紙に書く寸前に僕は立ち上がり、「ありがとう」と手話で伝えると、外に向かう。
母さん
えっ?ハヤト、聞こえてるの?
後ろから母さんの声が聞こえ、振り向き頷く。
すると、母さんは満面の笑みを浮かべ…
母さん
本っ当に良かった!きっと、神様が助けてくれたのね!色々伝えたいことはあるけど、学校だし、帰ってからお話は聞いてね!
目に涙を浮かべ、喜ぶ。
小さく頷くと、家を出た。
出ると、気付いたリサが軽く僕に手を振る。
僕も振り返し、リサの方へ。
福留 リサ
今日もいい天気だね〜
話しながら、ノートに書き、僕に見せる。
僕はリサが持っていたノートとペンを取ってから、頷く。
福留 リサ
ん?
「声は出ないけど、耳は聞こえるようになった。」
その1文を書き、リサに見せるとやっぱ驚いた。
そして…
福留 リサ
ハヤト、おめでとう。
優しい笑顔で優しい声でそう言って、笑った。
福留 リサ
耳が聞こえるようになったなら、これからはもっと色んなことに挑戦することが出来るね!
それから学校に行く。
いつも静かだった学校は音に溢れていて、授業中も黒板に書いてあることを写すだけだったのが、先生の説明を聞きながら写すことが出来た。
声を出さなくていい教科だと当てられるように。
静寂が終わった世界は楽しいことだらけだった。
いつまでもこんな日が続きますように……。
そんなことを願う僕。
お母さんは「きっと神様が助けてくれた」と言ったけど、実際は天使と死神だ。
あの"黒い彼岸花"のおかげで…僕は変われた。
こんなにも毎日が楽しいなんて、知らなかった。
天使と死神、本当にありがとうね。
いつも感謝しながら、僕は毎日が楽しい学校に通うことになった…。

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