第51話

差別を望まない少年 〜4〜
319
2019/05/11 09:13
綾野 カオル
凄い…!
部屋の中で何も無い場所から現れた水の塊を見ながら、僕は感心の声を上げていた。
綾野 カオル
でもな…
本当に復讐なんて出来るのかな…。
何処にそんな勇気が……
そんなことを考えていると、ポケットから落ちた僕のスマホがその衝撃で画面をつけた。


そこに映るのは、僕と天宮さんの写真。


仲良くなった時に勇気を出して一緒に撮りたいと頼んだときに天宮さんが快くOKを出してくれて、撮ったもの。
あの時は勇気を出せたんだ…。
だから、今回だって勇気を出していけばいける!
どうやって復讐をするかなんて僕には一瞬で考えられなかった。


取り敢えず、今日は寝よっかな…。
そう思うと、僕は布団に入ったのだった。





次の日、思いついたことがあった。
いつも電車で1人で帰ってるからそこで…
天宮 ノエル
ねぇ
だけど、僕に人殺しなんて…
天宮 ノエル
お〜い?
でも、勇気を出してやってやるんだ…!
天宮 ノエル
お〜い!!
綾野 カオル
へ?あっ、な、何!
天宮 ノエル
さっきからずっと呼んでるんだけど…
綾野 カオル
ごめんごめん!ちょっと考え事をしててね?どうしたの?
天宮 ノエル
私、この"マンジュウ"ってお菓子を食べてみたいの!
綾野 カオル
饅頭?
天宮さんが僕に見せたのは、1枚のチラシでそこには有名な和菓子屋さんとその中でも特に人気のある饅頭の写真が載せられていた。


ここ最近の放課後や休日は天宮さんが食べたことない食べ物を食べに行くことが多い。
綾野 カオル
あー、ここの美味しいもんね。
天宮 ノエル
終わってからでもある?
綾野 カオル
確か朝と夕方に販売量だけ出されるから多分、あるんじゃないかな?
天宮 ノエル
よく分からないけど行ってみたい!
綾野 カオル
いいよ。
電車に乗って行く場所だから都合が良かった。
行く途中で佐川を殺ろう。


あの饅頭はまた今度連れてってあげよ…。
やってきた放課後。
僕の復讐の実行時間が近付いてくる。
天宮さんと駅に向かってホームに降りると案の定、佐川がスマホを見て電車を待っていた。
綾野 カオル
……。
いけ、僕…!!!
全神経を研ぎ澄まして、佐川の体内の水分を膨らませ、肺の中に送り出していく。
すると、佐川の手からスマホが落ちた。
佐川 エミ
かはっ…!?な、んなの、これ…?
苦悶の表情の佐川がホームに膝を着く。
周りの人達が心配がって佐川の周りに集まり出す。
それでも僕は辞めなかった。
あと少し、あと少しで……!!!

























佐川 エミ
早く、帰って…リミ、のご飯…作ら、ないと…いけな、いのに…!


























佐川が苦しそうに発した声が耳に届いた瞬間、僕は肺の中の水を消した。
そうだ…佐川には妹がいたんだっけ……
佐川はいつも教室で仲のいい女子にスマホに入っているまだ小学生の妹の写真を見せて「可愛いでしょ」と何回も言っていた。
それで佐川はいつも帰りが早かったんだ…
佐川が死んだら、妹はどうなる?
…………………そんなの悲しむに決まってる。
それなら、佐川を殺すなんて…
綾野 カオル
僕には出来ない…っ!
天宮 ノエル
カオル君!
天宮さんを置いて、ホームから去るために階段を駆け出して、駅を出て人が少ない方へ。
綾野 カオル
はぁ…はぁ…はぁ……
死神
失敗だな。カオル。
綾野 カオル
僕には…殺すなんて出来ない…!
死神
結果はどっちでもいい。ただ約束は守ってもらうぞ。
そう言って、死神は手にしていた大きな鎌を僕に振り下ろしたのだった…。

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