数時間をかけ、火災は無事に鎮火した。
そして、その火災はニュースになっていた。
火災は火災でも爆発事件だった。
爆発した犯人は犯罪組織通称”死の黒豹”。
実行犯は逃亡した。
あの現場からトウカは発見されなかったが、
崩れた天井に付着していた大量の血痕により
恐らく、完全に燃え尽き死亡したのではない
かとの判断。
爆破事件から数日後の今日。
トウカの葬式が行われ、俺も参列していた。
遺影に写っている、トウカは笑顔だった。
葬式が終わり、帰ろうとした時…
黒服を着て、目に涙を溜めている男女に俺は
止められた。
そこで言葉を切ると、トウカの父さんと目を
合わせ、少し微笑んだ。
そして、微笑んだトウカの両親は辞去した。
帰り道…
…許さない。アイツらを…”死の黒豹”を絶対に俺は許さない。
復讐心に燃えていた。
全くあの迷子の子のせいとは思わない。
犯罪組織”死の黒豹”のせいだ。
アイツらのせいでトウカは……
絶対にいつか、コろ…シテ………
復讐心に呑み込まれそうになった俺を止めた
のは、一輪の”黒い彼岸花”だった。
道端に一輪だけ咲いている。
季節的にはおかしいんだけどな…
俺は”黒い彼岸花”近寄り、しゃがむと花に手を伸ばし、触れた。
ピリッとした痛みが脳内に走る。
火災現場で最後に見たトウカの笑顔。
助けてもらった少女の申し訳なさそうな顔。
トウカの両親の悲しそうな顔。
次々と脳内を巡る記憶。
一つ一つを思い出す度に俺の願望は膨らみ、
苛立ちからか、俺は”黒い彼岸花”を地面から
引っこ抜いてしまった。
小さく呟くと、立ち上がり歩き出す。
向かったのは駅。
昼だったこともあり、ホームにはあまり人が
いなかった。
通過列車がホームに入ってくるアナウンス。
そして、アナウンス通りに電車が遠くから、
速いスピードで走ってくるのが見える。
最期に俺は今まで、認めたくなかったことをようやく認めようと思った。
俺は、俺は……
ポツリと呟き、俺はホームから足を離した。
鳴り響く警笛。そんなのはどうでもいい。
電車が俺に当たる寸前…
…警笛も周りの悲鳴も聞こえなくなった。
俺の体が宙に浮いている。
目の前には俺を轢く電車が止まってる。
静かになった世界から聞こえた女の子の声。
声のした方を見ると、金髪赤目に真っ白な翼
を持つ俺と同じくらいの子がいた。
そういう系のやつか…。
見れば誰でも予測できるような回答。
初めてきたまともな回答。
天使は軽くジャンプすると、俺が持っていた
”黒い彼岸花”を取った。
すると、天使は笑顔でこう言った。
俺は天使の言ったことを復唱した。
正直、この状況も今現在の俺の立場も全く、
分からない。
願いを叶える?そんなのハッタリだろ?
………でも…本当に叶うなら俺は…
あまり言葉を知らないのか?まぁ、いいか…
俺にとって大切なもの…
天使は不思議そうに首を傾げる。
そうだ。
トウカは大切だけど、ものなんかじゃない。
俺にとってトウカ以外は命も家族も大切とは
思わなかった。
気が付くと俺はホームに立っていて、目の前
を電車が通り過ぎて行っていた。
あの天使の話を信じ切ったわけではない。
けど、少しでも可能性があるのなら…少しは
聞こうと思った。
ただ、それだけ。
全ては”死の黒豹”への復讐のため。
何がなんでもこの復讐、やり遂げてみせる…
そして、俺は次の電車で家へと向かった…
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!