第26話

生きる意味を探す少年 〜3〜
454
2022/01/26 17:32
数時間をかけ、火災は無事に鎮火した。
そして、その火災はニュースになっていた。
火災は火災でも爆発事件だった。
爆発した犯人は犯罪組織通称”死の黒豹”。
実行犯は逃亡した。
あの現場からトウカは発見されなかったが、
崩れた天井に付着していた大量の血痕により
恐らく、完全に燃え尽き死亡したのではない
かとの判断。
爆破事件から数日後の今日。
トウカの葬式が行われ、俺も参列していた。
如月 リクト
……。
遺影に写っている、トウカは笑顔だった。
葬式が終わり、帰ろうとした時…
女性
君が如月君…?
黒服を着て、目に涙を溜めている男女に俺は
止められた。
如月 リクト
え、まぁ、はい…。
トウカの母さん
こんにちは、トウカの母です。
トウカの父さん
大変娘がお世話になりました。
如月 リクト
あ、は、初めまして…。こちら
こそいつもトウカに仲良くして
もらって…。
トウカの母さん
いつも冷たい態度になりがちな
トウカにお友達とかが出来るか
正直不安だったんです。でも…
そこで言葉を切ると、トウカの父さんと目を
合わせ、少し微笑んだ。
トウカの父さん
如月君と友達になってから娘は
毎日楽しそうに学校に行って、
家でも笑うことが増えました。
如月 リクト
……そう、だったんですか…。
トウカの母さん
…本当に如月君には感謝してい
ます。今まで娘と仲良くしてく
れてありがとうね。
そして、微笑んだトウカの両親は辞去した。
帰り道…
如月 リクト
……。
…許さない。アイツらを…”死の黒豹”を絶対に俺は許さない。
復讐心に燃えていた。
全くあの迷子の子のせいとは思わない。
犯罪組織”死の黒豹”のせいだ。
アイツらのせいでトウカは……
絶対にいつか、コろ…シテ………
如月 リクト
ん?
復讐心に呑み込まれそうになった俺を止めた
のは、一輪の”黒い彼岸花”だった。
道端に一輪だけ咲いている。
季節的にはおかしいんだけどな…
俺は”黒い彼岸花”近寄り、しゃがむと花に手を伸ばし、触れた。
如月 リクト
っ…
ピリッとした痛みが脳内に走る。
火災現場で最後に見たトウカの笑顔。
助けてもらった少女の申し訳なさそうな顔。
トウカの両親の悲しそうな顔。
次々と脳内を巡る記憶。
一つ一つを思い出す度に俺の願望は膨らみ、
苛立ちからか、俺は”黒い彼岸花”を地面から
引っこ抜いてしまった。
如月 リクト
……クソ…っ…。
小さく呟くと、立ち上がり歩き出す。
向かったのは駅。
昼だったこともあり、ホームにはあまり人が
いなかった。
如月 リクト
……。
通過列車がホームに入ってくるアナウンス。
そして、アナウンス通りに電車が遠くから、
速いスピードで走ってくるのが見える。


最期に俺は今まで、認めたくなかったことをようやく認めようと思った。
俺は、俺は……
如月 リクト
…神に見捨てられたな。
ポツリと呟き、俺はホームから足を離した。
鳴り響く警笛。そんなのはどうでもいい。


電車が俺に当たる寸前…
…警笛も周りの悲鳴も聞こえなくなった。
如月 リクト
は?
俺の体が宙に浮いている。
目の前には俺を轢く電車が止まってる。
天使
こんにちは!!
静かになった世界から聞こえた女の子の声。


声のした方を見ると、金髪赤目に真っ白な翼
を持つ俺と同じくらいの子がいた。
如月 リクト
お前…何?
天使
私は私だよ?
そういう系のやつか…。
如月 リクト
…何で俺は轢かれない?
天使
時が止まったから。
見れば誰でも予測できるような回答。
如月 リクト
…お前はどういう存在?
天使
神に見捨てられた天使だよ。
初めてきたまともな回答。
如月 リクト
天使?
天使
うん!
如月 リクト
神に見捨てられた?
天使
そう。
如月 リクト
何で時を止めた?
天使
リクト君が選ばれたから。
如月 リクト
何に?
天使
”黒い彼岸花”に。
天使は軽くジャンプすると、俺が持っていた
”黒い彼岸花”を取った。
すると、天使は笑顔でこう言った。
天使
君は願いを叶えたい?
如月 リクト
願いを叶えたいか…?
俺は天使の言ったことを復唱した。
正直、この状況も今現在の俺の立場も全く、
分からない。
願いを叶える?そんなのハッタリだろ?
………でも…本当に叶うなら俺は…
如月 リクト
…復讐をしたい。
天使
”フクシュウ”って?
あまり言葉を知らないのか?まぁ、いいか…
如月 リクト
復讐ってのは、憎い相手に同じ
またはそれ以上の苦痛を与える
ことだ。
天使
…何となくだけど分かったよ!
リクト君は憎い相手に仕返しを
したいってことかな?
如月 リクト
まぁ、ザックリ言うとそう。
天使
その願い、私が叶えてあげる!
そのかわり、何か大切なものを
一つ失うけどいい?
如月 リクト
大切なものって?
天使
何でもいいよ!
俺にとって大切なもの…
如月 リクト
…大切なものなんて何も無い。
天使
大切なもの、ないの?
天使は不思議そうに首を傾げる。
そうだ。
トウカは大切だけど、ものなんかじゃない。
俺にとってトウカ以外は命も家族も大切とは
思わなかった。
天使
ふーん…まぁ、いっか。その…
えっと…”復讐”?っていうのを
望んだのはリクト君が初めて。
だから、オマケだよ。
如月 リクト
ああ…。
天使
リクト君には物を灰に変える力
をあげる。それで上手く願い事
を叶えてね!それじゃ!
気が付くと俺はホームに立っていて、目の前
を電車が通り過ぎて行っていた。
如月 リクト
……。
あの天使の話を信じ切ったわけではない。
けど、少しでも可能性があるのなら…少しは
聞こうと思った。
ただ、それだけ。
全ては”死の黒豹”への復讐のため。
何がなんでもこの復讐、やり遂げてみせる…
そして、俺は次の電車で家へと向かった…

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