XXXX年、夏。
蒸し暑い森の中を僕、ナツは結構重い木箱を抱えながら歩いていた。
この木箱の中身は大量の食材。
これを2、3日に1回この森の奥にある家に届けるのが僕の仕事である。
蒸し暑い森もある程度、進めば涼しくなり風も冷たく気持ちいいものになる。
涼しくなればもう目的地はすぐそこだ。
森を抜けた先にあったのは小さな家。
入口から少し離れたところにある切り株の上に僕が持っているのと同じ木箱が置いてある。
持っていた木箱を切り株の上に置くと、僕は空の木箱に座って一息つく。
数年前、漁師が近くの海岸で"天使"が打ち上げられていたのを見つけた。
噂によるとその天使は輪っかが無ければ翼も無い。
ただ黒髪黒目の僕達と違って、金色の髪と水色の瞳を持ち、僕達には分からない言葉を話したそうだ。
天使は天使でも"堕天使"、そうみんなは呼んでいた。
誰もが気味悪がってはいるが、処刑かとなるとそうはいかないらしい。
それで処刑の代わりに実行されたのが隔離。
隔離先が誰も来ないような山奥にひっそりと静かに佇むこの小さな家。
村の人が定期的にいるかの確認以外は放置状態。
何をしているのかは誰も知らない。
僕は運悪くこの山奥の天使が住む家に食材を運ぶ役に任命されてしまったってところ。
軽い木箱を片手で持ちながら、家から離れる。
何回も来れば、いつもどんな人の為に運んでいるのかが気になる。
でも、見てはいけない、そう言われ続けた…。
お母さんに見送られて俺はここ最近で一番重い木箱を持ち上げると森に向かって歩き始めた。
1時間と少し歩くと、涼しくなりあと少しだと自分に言い聞かせる。
はぁぁぁ……重い重いおも、何だ?この匂い…。
甘い香りがこの先から漂ってくる。
腕に力を入れて早足で先を急ぐ。
匂いの出処はいつも食材を届ける小さな家だった。
木箱を取り替えて、いつも通りに休憩と座る。
ふんわりとした甘い匂いはめっちゃ暑い中、めっちゃ重い荷物を持たされ、めっちゃ歩いてきた僕の空腹を最大限に増加させる。
ぎゅるるるるぅ……とお腹が鳴って、僕は早く帰って何か食べようと立ち上がり木箱を取る。
森に入ろうとしたところで僕は進む足を止めた。
振り向いて、お母さんの言葉を思い出す。
小さな家に近付き、扉の前で独り言を呟く。
気になるけど覗きは人としてどうかとは思う。
でも、知りたい。見たい。
丁寧にノックして出て来てもらう?
それとも普通に開けて…いやいや、それはない。
ここはいっそ諦めて帰るのも ───────
ゴンッ!!
いきなり扉が開いたせいで頭を強くぶつけて、僕は頭を押さえてその場にしゃがみ込んだ。
いったぁ……何で扉が勝手に…
痛過ぎて軽く溜まった涙を拭い、地面から前を向くとドアの影から雪のように真っ白で棒のように細い脚が見えた。
脚?細さ的にも女の子?まさか…
ゆっくりと少しずつ顔を上げる。
するとそこにはドアの影から首を傾げて不思議そうに俺を見ている天使がいたのだった…。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!