第37話
静かな世界に住む少年 〜2〜
河川敷の真ん中に咲く"黒い彼岸花"は何処か不気味で、そして、綺麗だった。
その魅力に釣られるように"黒い彼岸花"に触れる。
…いや、そのまま引っこ抜いてしまった。
あ……ごめんなさい…。
心の中で"黒い彼岸花"に謝り、立ち上がる。
河川敷を出て、近くの橋へ。
別に死にたいなんて思っていない。
だけど…あの記事に書いてあった通り、自殺したいという衝動が湧きあがった。
橋に足をかけると、そのまま乗り越えた。
体は川に向かって落ちていく。
川は大きいから頭から落ちたらこの世とお別れ。
静かな世界に別れを告げるように僕は目を瞑る。
しかし、水の冷たい感覚が来ない。
不思議に思い、目を開くと、僕と同じくらいで長い金髪の女の子が水面に立っていた。背中からは白い翼がある。
その隣には真っ黒なマントを羽織り、大鎌を持つ死神が立っていた。
天使のような子は僕に話しかけているようだ。
だけど、何を言っているのかが分からない。
不思議そうに僕を見つめる天使に死神が何か話しかけている。
死神に言われ、何か分かったのか天使が僕の頭に手を置いた。
静かな世界の中で初めて"音"を聞いた。
けど、文字は分かるけど、音にすると意味が理解出来ない。
少し眉を下げると、天使はそのことに察したのか空中に指を滑らす。
「これで聞こえるかな?」
空中に書かれた水色に光る文字。
今の"声"がこういう意味なんだ…
僕は縦に首を振った。
僕の額に手を置き、喋りながら空中に文字を書く。
"黒い彼岸花"は実在してたの?
君達は回収する、天使と死神で合ってるの?
僕の…願いを叶えてくれるの?
頭に浮かぶ疑問。
浮かんでいるのに声にならない。
僕の思考を読んだのか、質問に答えてくれる。
天使は手に持っていた"黒い彼岸花"を取ると…
「君は願いを叶えたい?」
「それとも憎いやつに復讐したいか?」
水色と紫の文字が目の前に浮かんだ。
本当に叶えてくれるんだ……。
僕の耳を聞こえるようにして欲しいな…
脳内に聞こえる声。
大切なもの…耳が聞こえるなら僕は話せないままでいいよ。
天使の問いに僕は頷く。
……気付くと、橋の上に立っていた。
手に持っていた"黒い彼岸花"は消えている。
川の水面には天使も死神もいない。
夢……?
よく分からないまま家へ。すると…
…その日は、生まれて初めて自分の母親の声を聞くことが出来た……。
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