河川敷の真ん中に咲く"黒い彼岸花"は何処か不気味で、そして、綺麗だった。
その魅力に釣られるように"黒い彼岸花"に触れる。
…いや、そのまま引っこ抜いてしまった。
あ……ごめんなさい…。
心の中で"黒い彼岸花"に謝り、立ち上がる。
河川敷を出て、近くの橋へ。
別に死にたいなんて思っていない。
だけど…あの記事に書いてあった通り、自殺したいという衝動が湧きあがった。
橋に足をかけると、そのまま乗り越えた。
体は川に向かって落ちていく。
川は大きいから頭から落ちたらこの世とお別れ。
静かな世界に別れを告げるように僕は目を瞑る。
しかし、水の冷たい感覚が来ない。
不思議に思い、目を開くと、僕と同じくらいで長い金髪の女の子が水面に立っていた。背中からは白い翼がある。
その隣には真っ黒なマントを羽織り、大鎌を持つ死神が立っていた。
天使のような子は僕に話しかけているようだ。
だけど、何を言っているのかが分からない。
不思議そうに僕を見つめる天使に死神が何か話しかけている。
死神に言われ、何か分かったのか天使が僕の頭に手を置いた。
静かな世界の中で初めて"音"を聞いた。
けど、文字は分かるけど、音にすると意味が理解出来ない。
少し眉を下げると、天使はそのことに察したのか空中に指を滑らす。
「これで聞こえるかな?」
空中に書かれた水色に光る文字。
今の"声"がこういう意味なんだ…
僕は縦に首を振った。
僕の額に手を置き、喋りながら空中に文字を書く。
"黒い彼岸花"は実在してたの?
君達は回収する、天使と死神で合ってるの?
僕の…願いを叶えてくれるの?
頭に浮かぶ疑問。
浮かんでいるのに声にならない。
僕の思考を読んだのか、質問に答えてくれる。
天使は手に持っていた"黒い彼岸花"を取ると…
「君は願いを叶えたい?」
「それとも憎いやつに復讐したいか?」
水色と紫の文字が目の前に浮かんだ。
本当に叶えてくれるんだ……。
僕の耳を聞こえるようにして欲しいな…
脳内に聞こえる声。
大切なもの…耳が聞こえるなら僕は話せないままでいいよ。
天使の問いに僕は頷く。
……気付くと、橋の上に立っていた。
手に持っていた"黒い彼岸花"は消えている。
川の水面には天使も死神もいない。
夢……?
よく分からないまま家へ。すると…
…その日は、生まれて初めて自分の母親の声を聞くことが出来た……。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。