これが良くないことだってわかっている .
今すぐ辞めた方がいいってことも ,
叶わないってことも .
でも , 私は間違いなく彼に夢中だ .
私の声が届いているんだろうけれど
ちょっと失礼にイヤホンをしながら話すのはチソン .
隣の席の奴だ .
自信満々の私に
あからさまに呆れた態度のチソン .
そんな彼に見向きもせず私は話を続ける .
私の好きな人は私自身もびっくりだが
" 先生 " なのだ .
禁断の恋に憧れているんじゃない ,
私の運命の人はこの人だと
思ってしまうくらいには普通に好きなのだ .
どうやって気を引こうかなんて悩んでいるうちに
気づけば当たりは茜色に染まっていて ,
先生との補習の時間が迫る .
空き教室に足を踏み入れて
先生が佇む教壇の前から二番目の席に勢いよく座る .
先生のびっくりした顔も呆れた顔も
申し訳ないけれど大好きだ .
あと , その絶妙に似合ってないメガネもだいすき .
不思議そうな顔をして
手元のプリントを見比べている先生 .
当たり前だよ .
前までしてた勉強も今回だけはしなかったんだもん
良くない子だけど
先生が好きなのだから今回ばかりは見逃して欲しい .
文章の組み立てとかよくわかんないし
元々英語はそんなに好きじゃない .
でも , 前までは先生に褒めて欲しくて
苦手な英語もいっぱい頑張って今がある
今勉強しなくなった , っていうか ..
わざと点を落としてるのはかまって欲しいから .
私は子供で , 生徒だから ,
大人である先生と交わることはない .
ましてや真面目な先生だから , 余計に .
なら今くらい生意気に , 先生に向き合いたかった .
そう言うと先生は私の前の席にやってきて
机を挟んだだけのすぐそこに座った .
保険なんかかけちゃって ,
なんのために先生やってるんだか .
私に教えるためにプリントと向き合う先生 .
思ったより長いまつ毛に ,
こんなに近くで見ても見当たらない肌の荒れ .
先生の声も心地よくて ,
なんだか別世界に引き込まれているようだった .
先生が今私の目の前だけにいて ,
私だけと話している .
まるで同年代のような近い距離で .
常々この距離にいることが許されない関係なんて
そんなもの要らないと , そんなのは嫌だと ,
どれほど願っても ,
先生が先生である限り無理な訳で ,
かけているメガネが下を向いているせいで
落ちてきているのか
縁に触れて位置を戻している .
そんな仕草さえいいと思ってしまう .
メガネなんかちっとも似合ってないくせに .
ボケっとしている私に
心配そうな瞳を向ける .
その瞳に映った私は
なんだか悲しそうな顔をしていて ,
胸が締め付けられた .
どうせ今年卒業する身だ .
先生にどう思われたってもういいのかもしれない .
私は先生の大好きなメガネを外した .
不思議そうな顔をする先生は
今まで見た事ないくらい綺麗で ,
眼鏡姿も好きだけど .
メガネしてない方がやっぱり好きだなんて思ったり .
不思議そうに首を傾げる先生の気を
逸らすようにプリントに指を指す .
諦めなきゃいけないってわかってる ,
この恋は叶わないものだってことも , 分かってる .
でも1回でいいから ,
数分だけでいいから ,
先生の , マーク先生の視界にはっきり映りたくて
私は先生の額にキスをした .
目をぱちぱちさせ , 何が起こったか気づいた先生は
あわあわと顔を赤らめながら焦りだした .
そんなにピュアなら ,
私の純な心に頷いてくれたっていいのに .
悔しいことに ,
そんな先生を見て私はまた ,
好きが溢れてしまった .
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。