浮かない顔して座り込む君に
できるだけ優しい声で問いかける .
わかってる ,
僕に何も出来ないことなんて .
僕に 話そうか , 話さないか ,
迷った末に吸った息を吐いて ,
君は静かにそう言った .
なんでも言っていいんだよ .
君にしてあげられることが ,
僕にはそれくらいしかないんだから .
無理に聞き出す必要もないし ,
無理に言わせる気もない .
僕はただ君に
自販機で買った飲み物を渡す .
話したいことは
話したくなった時の為にあるものだから ,
僕は君が話したくなるまで
ゆっくりとそばに居るよ
きっとまた ,
聞きたくもない話を聞かされることを
どこかで分かっていながらも .
幼い頃から何度も僕にそう言う .
" いい人だね "
僕はただそれに笑うだけ .
それしか出来ないんだ .
幾度となく苦しめられてきたその言葉も
笑って見逃さなければならない .
そんな立場に着いたのは僕からだ .
恋をする君を見ていると , 苦しい .
見ているだけでいい , と
僕は一人で大丈夫だ , と
そう決めたのは僕自身なのに .
僕じゃない誰かを想って ,
泣いて , 笑って , 苦しんで ,
その僕じゃない誰かが
僕はただただ , 羨ましくて仕方がない .
妬ましくて仕方がなかった .
彼女の耳を触ろうとして ,
手の位置を頭に変える .
関わり方も , 変えなければ .
君に手を振って ,
後ろを振り向いて , 歩く .
呼び止めてくれないかと ,
何度期待して , 妄想してを
繰り返したことか .
当たり前だけど彼女は
僕を呼び止めたことなど一度もない .
きっと君は覚えていない .
学校に友達が遊びに来た時 ,
" 僕たちがカップルみたいだ , "
とふざけあったことを .
君はただ笑うだけで ,
拒否も否定しなかった .
僕はその日一日眠れなかったのに .
君は随分と呑気だった .
君は知らないだろうな .
お酒が飲めるようになって ,
僕たちの知り合い皆で一緒に飲んだ時 .
酔った君を迎えに来たアイツに
僕を挨拶させた時の感情を .
何故僕が挨拶しなきゃいけなかったのか .
僕の誕生日だったはずなのに ,
ちっとも嬉しくなかった日 .
僕は君を見てるだけで幸せだ .
君が幸せそうなら僕も嬉しい .
そんなの嘘だけど .
あの時 , 僕に挨拶する彼を見て
君の頭の中を埋め尽くす彼が
こんな人なんだ , と気付いた時 .
僕とは遥かに何かが違くて
比べ物にもならなくて ,
突然自分が惨めになって
その人に威張ることも出来なくて
" あなたをよろしく "
そうとしか言えなかった僕は
君を泣かせる人が付けた傷を
慰めることしか出来ない .
会いたい夜も , 待っていた日も ,
君を好きだという気持ちだけで
きっと , 幸せなはずなのに
溢れ出てしまいそうな気持ちを
押さえ込もうと , 必死になって
僕は君にとっての " いい人 " に
なるしか無かったみたいだった .
だから , あれも , これも , 全部 , 全部
別に , 君のためじゃないよ
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。