『んー…』
家に帰ってからも僕は、
悶々と考え続けていた。
僕は、“君のそば”にいていいのか。
僕はやっぱり、君のことが好きだ。
今日君の笑顔を見て、それがわかった。
悠香のことが好きだ。痛いほど。
でもだからこそ、
彼女をもう傷つけたくなかった。
事故の瞬間が、脳裏をよぎる。
トラックが目の前に迫って、
君が弾き飛ばされた瞬間、僕は思った。
ああ、と。
やっぱり僕は、弱かった。
守れなかったんだ、と。
それと交差するように思い出すのは、
いつか見た映画のワンシーンだ。
確か、恋愛映画だったのだろう。
危機にさらされた彼女をその彼氏が助け、
病院で目を覚まし涙を流す––––––。
そんな、よくあるお幸せなシナリオだった。
神さまは残酷だった。
僕の身体を、心を、大切な人を守れないような弱いままで世界に送り出した。
現実は、映画のようにうまくいかない。
『はは、はははっ…』
力の抜けた笑い声が、口をついて出た。
クラスでも人気者の悠香。
そんな彼女に告白したはいいものの、
まさか本当に付き合えるなんて、
思ってもいなかった。
『なに、』
彼氏ヅラしてんだよ、おまえごときが。
いつだったか、クラスメイトに
言われた言葉だ。
本当だね。
あのとき僕といっしょにいなければ、
君は轢かれなかったかもしれないのに。
あのとき君の隣にいたのが別の男なら、
君は助かっていたかもしれないのに。
あのクラスメイトは正しかった。
君に告白しなければ、
––––––君を好きにならなければ、
大切な君を守れたのに。
“んもー、すぐマイナス思考に走るの、
侑くんの弱点だよー?
侑くんにはいいところがたくさんあるのに”
不思議だね。
こんなときでも。
聞こえてくるのは君の声で、
目に浮かぶのは君の笑顔で、
少しだけ勇気をくれるのは、
君の言葉なんだ。
僕はやっぱり––––––、君が、好きだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!