第2話

忘れようとしてるのに。
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2018/04/02 04:55
「彼女に、会いにいってもいいですよ」
何度か、悠香の主治医から言われた言葉だ。

でも、勇気が出なかった。
「もしかしたら、何かを思い出すきっかけになるかもしれません」

たしかにそうかもしれない。

でも、悠香は思い出していいんだろうか。
僕のことは忘れたままでいるほうが、
悠香にとっては幸せなんじゃないだろうか。


本当のことを知ったら、
きっと彼女は僕に気を遣う。
思い出さないままでも、
僕のことを彼氏として扱うに違いない。

僕にはもう、悠香を守る自信がない。



だから、あんなことがなければ、僕が彼女の病室を訪れるようなことは、なかったはずなのだ。
「あっ、侑哉くんじゃないのー!」

後ろから、はしゃいだ声がした。

『悠香の、お母さん…』

何度か会ったことがあるからわかる。
明るくて面白くて、悠香にそっくりのおばさんだ。


だめ、だ…。


どうしても悠香のことを思い出してしまう。

忘れようとしているのに。
「これから、悠香に会おうと思って」
そんな僕をおかまいなしに、おばさんは話を進めていった。
「侑哉くんも一緒にきなさいよ、
わたしがちゃんと紹介するからね」

『え、でもまだ記憶が戻ってないんじゃ…』
だから会うのよ、思い出すかもしれないでしょ!

力強く叫んだおばさんに半分引きずられながら、僕は病室に向かった。

おばさんは強い。
辛いはずなのに、僕にも気を遣って、
明るくしてくれている。




悠香に、そっくりだ––––––。
病室に着くと、おばさんは言った。
「ほら、悠香、侑哉くんよ」

まずい。
このままだと、彼氏だということをバラされる可能性が大いにある。

『あのっ、ちょっとだけ、悠香とふたりで話していいですか?』
「ぜんっぜんいいわよ!」

あいかわらずノリのいいおばさんだ。

知らない男とふたりっきりにされる悠香には申し訳ないが、これは悠香の、


ため、なのか………––––––?
僕のため?
思わずうつむいた僕は、
悠香の視線に気づいた。


言えない。

これは僕の自己満足なんだ、なんて。


見せられない。

大切な君を守れなかった弱い僕を。


伝えられない。

今でも君が好きだったこと。



そんなことをしたら、
もっと忘れられなくなるから。

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