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第21話

20*勘違い
429
2021/11/06 19:33









あれは、やり過ぎただろうか。















ライターで付けれるはずの火を、俺の吸ってた煙草から移す為に、あの時あなたの手を引いた。







少しでも君に近付けるのなら、理由なんて何でも良い。













早く俺の気持ちに気付いてくれないかと鈍感な相棒の事を考えながら、俺は一人自宅のベランダで煙草の火を見つめていた。











______________






ピンポーン












そろそろ夕飯でも食べようかと思っていたら、玄関のチャイムが鳴った。



誰だ。



通販とかで買い物はしてないし、宗教勧誘もこの時間はさすがに来ないだろう。






面倒だなと思いながらドアを開けると、兎原と熊谷がいた。












表田 裏道
表田 裏道
…なに。
兎原 跳吉
兎原 跳吉
携帯に連絡しても返事無いんで来ちゃいました!
表田 裏道
表田 裏道
…何でうち?
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
兎原の実家から大量の酒が届いたので、裏道さんにも渡そうと兎原に言われて何故か俺も連れられて来ました。
表田 裏道
表田 裏道
なるほど。
兎原 跳吉
兎原 跳吉
携帯に連絡しても返事ないんでちょっと心配しましたっすよー!
表田 裏道
表田 裏道
何を心配するんだ。
兎原 跳吉
兎原 跳吉
あ、いや、それは…(笑)
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
裏道さんとあなたさんの仲が気になって仕方がないから本人に聞きに行こうと言ってました。
兎原 跳吉
兎原 跳吉
おまぁぁぁぁ!?!?
息するみたいに裏切るなッッッ!?
表田 裏道
表田 裏道
なにそれ。(真顔)
兎原 跳吉
兎原 跳吉
真顔怖いッッッ!!
てか熊谷も気になるっつってただろ!!
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
俺は家に押し掛けてまで聞くほどではない。
兎原 跳吉
兎原 跳吉
「酒持ってくついでに聞けば?」って言ったのはお前だろッッッ!!
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
知らないクマァ。
兎原 跳吉
兎原 跳吉
ここでクマオは通じねぇよ!?
表田 裏道
表田 裏道
とりあえず、近所迷惑になるから入れよ。


ぎゃあぎゃあ騒ぐ兎原の声は廊下に響く。


近所迷惑になって苦情はごめんだ。




半分不本意だが、2人を家に上げる。



まぁ…しょっちゅう来るから(俺は呼んでない)、慣れてはいる。






兎原の実家からという酒を受け取って、部屋に入る。








熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
裏道さん、夕飯食べましたか?
表田 裏道
表田 裏道
これから食おうと思ってた。
兎原 跳吉
兎原 跳吉
またへしこっすか?(笑)
表田 裏道
表田 裏道
悪いか。
兎原 跳吉
兎原 跳吉
悪くないですッッッ!!
表田 裏道
表田 裏道
お前らは夕飯食ったの?
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
まだです。
なので適当に買ってきました。



熊谷が机の上にビニール袋を置く。



中にはつまみの類いが入っていた。




…こいつら、ここで飲む気だな。



熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
ちなみにチョイスは兎原です。
兎原 跳吉
兎原 跳吉
熊谷くんんんん!?!?
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
事実だろ。
兎原 跳吉
兎原 跳吉
いやそうだけど!
その情報は言わなくても良くない!?
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
兎原が裏道さんの家で飲みたいと言っていたので。
兎原 跳吉
兎原 跳吉
熊谷ィィィ!!



さっきまで静かだった部屋が急に騒がしくなった。



机に置きっぱなしだった携帯を見ると、確かに兎原からのメッセージと着信が残っていた。



ベランダにいたから気付かなかったのか。




表田 裏道
表田 裏道
とりあえず座れよ。
兎原 跳吉
兎原 跳吉
あ、はい…じゃあお言葉に甘えいだッッ!?!?



兎原はダンベルに足をぶつけていた。


何度家に来ても、毎度ぶつけている。



兎原 跳吉
兎原 跳吉
裏道さん…部屋にダンベル放し飼いは良くないっす…。
表田 裏道
表田 裏道
あ?
兎原 跳吉
兎原 跳吉
何でもないですッッ!
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
裏道さん、机借りますね。
兎原は邪魔。
兎原 跳吉
兎原 跳吉
ひどいッ!
表田 裏道
表田 裏道
2人とも最初はビールで良いだろ。


返事もろくに聞かずに冷蔵庫に向かう。


ビールを3缶持って部屋に戻る。


熊谷は手際良く買ってきたつまみを机に並べていた。



表田 裏道
表田 裏道
置いとくぞ。



机に2人のビールを置いておく。




兎原はまだ若干涙目だ。


ぶつけたところが余程痛かったのだろう。




兎原 跳吉
兎原 跳吉
あざっす…。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
ありがとうございます。
表田 裏道
表田 裏道
とりあえず食うか。




そんな感じで何故か突然始まった我が家での飲み会。



まぁ…いつもの事だけど。


















___________




1時間後










兎原 跳吉
兎原 跳吉
面白くなりてぇ…。
表田 裏道
表田 裏道
またか。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
いつも通りです。
兎原 跳吉
兎原 跳吉
モテてぇ…。
表田 裏道
表田 裏道
欲の塊だな。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
前にもありましたよね。
表田 裏道
表田 裏道
居酒屋の時か。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
詩乃さんもいたのでなかなかの状態でしたよね。
表田 裏道
表田 裏道
そうだな。
兎原 跳吉
兎原 跳吉
面白くなりてぇっす裏道さん!



いきなり起きて俺にその話題を振るのか。


酒の力は怖いな(棒)



表田 裏道
表田 裏道
面白くなってどうすんだよ。
兎原 跳吉
兎原 跳吉
モテたいっす。
表田 裏道
表田 裏道
そこに面白さは関係あるのか。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
面白かったらモテると思ってるんですよ。
兎原 跳吉
兎原 跳吉
ちょ、何もしないでもモテる奴に俺の気持ちなんてわかんねぇだろぉぉ!(泣)
表田 裏道
表田 裏道
何もしていないというか、お前が何かやらかしてるんだと思うぞ。
兎原 跳吉
兎原 跳吉
裏道さんだってぇ、あなたさんがいるから良いじゃないっすかぁ!
表田 裏道
表田 裏道
何であなたの名前が出るんだよ。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
兎原はお二人が付き合ってると思ってるみたいです。
兎原 跳吉
兎原 跳吉
つか何でおしえてくんなかったんすかぁ!!
表田 裏道
表田 裏道
いや、そもそも付き合ってないし、お前に何を教えるんだよ。


兎原は完全に勘違いをしている。



あなたと付き合っていたら、さっきみたいにベランダで一人で考え込んだりしていない。


そもそもあなたに俺を意識してもらう方法を考えたりしていない。




兎原 跳吉
兎原 跳吉
俺達見たんすよ!?
表田 裏道
表田 裏道
何を。
兎原 跳吉
兎原 跳吉
裏道さんとあなたさんがキスしてるところ!!
表田 裏道
表田 裏道
……は?



こいつは何を言っているんだ。


勘違いとかではなく人違いではないか。



兎原 跳吉
兎原 跳吉
今日収録終わって帰る時、喫煙所でキスしてたの見たっすよ!!



…あれか。



兎原 跳吉
兎原 跳吉
ずるいっすよぉ…俺達に何も話してくれないなんて…。



兎原のテンションの上がり下がりがジェットコースター並みになっている。


酒の力は怖いな(真顔)



兎原 跳吉
兎原 跳吉
熊谷も見てるんすよ!
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
確かにあの場は見ましたけど。
兎原 跳吉
兎原 跳吉
ほら!
表田 裏道
表田 裏道
……。


熊谷は前に居酒屋で話したからまだ良いが、何も知らない上に酔っぱらっている兎原に説明するのは面倒だ。





そもそも俺とあなたは付き合っていないし、喫煙所でキスもしていない。




あれはあなたの煙草に火を移していただけだ。


距離が近かったし、多分角度もあってキスしてるように見えたんだろう。


そこから一人で妄想が暴走して勘違いして今に至るという感じなんだろう。


色々と兎原らしい。



それに対して、恐らくキスではない事に気が付いていながらあえて兎原に何の説明もしていない熊谷も、色々と熊谷らしい。




兎原 跳吉
兎原 跳吉
なんでおれらにはなしてくれないんすかぁ(泣)



兎原は酔いもあってか、涙目で机に突っ伏した。


このまま寝てくれたら楽なんだが。




兎原 跳吉
兎原 跳吉
はなしてくれるまでかえりませんよ!








とても面倒だ。








表田 裏道
表田 裏道
俺とあなたは付き合ってないから。
あなただって前に飲み会断った時に言ってただろ。
兎原 跳吉
兎原 跳吉
あのあとからつきあったとかじゃないんすか…。
表田 裏道
表田 裏道
だから付き合ってない。
兎原 跳吉
兎原 跳吉
んじゃあ、今日の喫煙所でキスしてたのは何なんすか!




兎原のテンションがいきなり高くなった。




こいつ、付き合ってるという話よりキスの話が聞きたいだけなんじゃないのか。



遂に愛に飢えて他人の恋話で自給自足しているのか…(遠い目)







表田 裏道
表田 裏道
あなたのライターの火が切れたから、俺の煙草で火付けただけだぞ。



本当は違う。


ライターの火を切らしたのは俺だ。


でもあえて、そうだった事にしておく。



…色々と聞かれるのは余計面倒だし。




兎原 跳吉
兎原 跳吉
煙草でつけれるんすか?
表田 裏道
表田 裏道
火種近付けて吸えば、火はつくぞ。



兎原は禁煙者だから、その辺は知らないのか。



だったら余計勘違いするだろうな。



熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
シガーキスってやつですか。



元喫煙者の熊谷は理解したらしい。


というか最初からわかっていたようだ。



兎原 跳吉
兎原 跳吉
しがーきす…って、やっぱりキスしてるじゃないっすか!!
表田 裏道
表田 裏道
お前の想像してるキスとは違うぞ。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
映画や漫画とかでたまにありますよね。
兎原 跳吉
兎原 跳吉
そうなの?
表田 裏道
表田 裏道
そうだよ。


いきなり他人とするような行為ではないが、別に恋人じゃないとしてはいけないという決まりもない。


俺にとってはただ、あなたに近付く為の口実にしか過ぎない。



熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
でも、互いの呼吸のタイミングとかもあるから、ある意味間接キスみたいなものですよね。
兎原 跳吉
兎原 跳吉
やっぱキスしてるじゃないっすかぁぁ!!


熊谷、こういう時に余計なことを…。



確かに間接キスと言われればそうなのかとも思うが、正直俺はそこまで考えていなかった。


距離を近くする為の口実だったから。




表田 裏道
表田 裏道
大の大人が間接キスとか気にするのか。



あなたが気にしているのかどうか、俺は知らないけれど。



熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
まぁ飲み物とか、飲み会の時の酒とか貰う時ありますからね。
気にする人は気になるでしょうけど、気にしない人は男女関係なく気にしていないと思いますよ。



ようやく熊谷からの助け船。


兎原 跳吉
兎原 跳吉
そうだったんすね…。
表田 裏道
表田 裏道
キスしてるように見えたのは角度の問題だろ。
煙草はそこまで長いもんじゃないんだし。
兎原 跳吉
兎原 跳吉
たしかに。



どうやら兎原は納得してくれたらしい。













兎原 跳吉
兎原 跳吉
でも俺、体大の頃から思ってたんすけど。




兎原は酒の入ったグラスを持ちながら、何かを思い出すかのように話し出した。







兎原 跳吉
兎原 跳吉
裏道さんとあなたさんって、付き合ってなかったらどういう仲なんすか?







兎原からの意外な質問。





俺とあなたの仲…。









兎原 跳吉
兎原 跳吉
体大の頃から俺たちより話してるっぽかったですし、今も仕事じゃ体操コンビじゃないっすか。









兎原にしてはまともな質問な気がする。









兎原 跳吉
兎原 跳吉
付き合ってなかったら親友とかなのかと思ったんすけど、それにしては何かこう…違うように見えるんすよねー。















俺とあなたは親友とかではない。



大学の先輩と後輩。



仕事のパートナー。



ただそれだけだ。
















表田 裏道
表田 裏道
ただの後輩で仕事仲間だろ。




嘘だ。




俺はあなたが好きだ。



けれどあなたがどう思っているのか、そもそも異性として見られているのかもわからない。



意識してほしいから、行動してるつもりだが…。














表田 裏道
表田 裏道
煙草吸ってくるわ。
兎原 跳吉
兎原 跳吉
了解っすー。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
外冷えますよ。
表田 裏道
表田 裏道
おー。





一人でベランダに出て、窓を閉める。





熊谷の言う通り外は寒い。




春はまだ少し先か。

















表田 裏道
表田 裏道
隣に立ちたい…か。



体大を卒業する時に言われたあの言葉。




あの時した約束。










いくら俺があなたに意識してもらえるように行動しても、


















約束を果たしていない、ずるい俺を














あなたはどう思っているのだろう。













煙草の煙が冷たい風に流されていく。









今更約束を果たしても、あなたは許してはくれないだろうか。



逆に嫌われるだろうか。













それでも俺は、























君が欲しいんだ。








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