第17話

16*どう思ってるんですか
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2021/10/23 17:40






_______


居酒屋









熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
あなたさんのこと、どう思っているんですか。
表田 裏道
表田 裏道
…体大の後輩で、体操のお姉さん。





きっと違う。


体大時代のあのやり取り、今思えば裏道さんは誰よりもあなたさんのことを気にかけていたに違いない。



この人は素直じゃない部分もある。

今も昔も。


変なところは素直に態度に出すが(主に兎原への態度)…肝心なところは隠してばかりだと俺は思ってる。




熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
それだけですか。
表田 裏道
表田 裏道
…それ以外、無いとだめなの?
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
……。


単刀直入に聞くのは流石に野暮か。


ただあなたさんが用事で飲み会を断ってから様子が変なのを見ていると、もしかしてと思ってしまう俺がいる。



熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
裏道さんが体大を卒業して、あなたさんが4年生になってからは連絡とかしてたんですか。
表田 裏道
表田 裏道
あんまし連絡は取ってなかったな。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
そう、ですか。
表田 裏道
表田 裏道
何かあったの?
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
いえ、特には…。




この様子だと裏道さんは、あなたさんが体大4年の時の事をほとんど知らなさそうだ。




話すべきか。




いや、 あなたさん本人がいないのにあの話をするのは良くないだろう。


下手に話して裏道さんがあなたさんに対しての態度が変わるのも良くない。




あの頃の事は、今は黙っていよう。




表田 裏道
表田 裏道
何で急にあなたの事聞くんだよ。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
あなたさんが用事で帰ってしまってから、心ここにあらずという感じがしたので。
表田 裏道
表田 裏道
…お前なぁ。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
裏道さんとあなたさんの仲なら、用事があるとか事前に聞いてると思ってたので、少し意外だなと。
表田 裏道
表田 裏道
…あいつは俺に何も話さないよ。
プライベートな事なんてお互いにそんなに話さないし。
熊谷が思ってるほどの仲でもない。
さっきも言ったけど、体大の後輩で職場の同僚、それだけだよ。



そう話してくれた裏道さんは、どこか寂しげな表情をしているように見えた。



熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
裏道さんや皆さんが思ってるような深刻な用事では無いと思います。
あなたさんに直接聞いたら、きっと教えてくれますよ。
表田 裏道
表田 裏道
別に俺には関係ないだろ。



またこの人は意地を張っているんだろう。


本当は気になって仕方がない癖に。


全く…ここまで来るといくら先輩とはいえ見ていられない。


というか見てる方はこっちがモヤモヤする。










ダメ元で聞いてみるか。











熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
裏道さんは、


















野暮かもしれないが。

















熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
あなたさんの事、好きなんですか。
女性として。
表田 裏道
表田 裏道
……。



やはり聞くべきではなかったか。



単刀直入過ぎたか。



やけに静かな居酒屋に、沈黙の時間が流れる。





















表田 裏道
表田 裏道
……だったら?
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
は?
表田 裏道
表田 裏道
俺があなたを好きだったら、何か問題あるのか。


答えてくれるとは意外だった。


もう少し言いづらそうな雰囲気なるとか、はぐらかすとか想像していたから。





裏道さんは、いつからあなたさんの事を好きだったのだろう。


体大の頃からなのか、MHKに入社してからなのか。





でも、俺の中でストンと府に落ちた。


裏道さんがあなたさんを好いていることに。


いつも気にかけていたその行動に。



俺は一人で納得していた。







熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
問題なんてないですよ。
むしろ安心しました。
表田 裏道
表田 裏道
安心?
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
はい。




少し安堵した俺に、裏道さんは低い声で、煙草の煙を眺めながら言った。





表田 裏道
表田 裏道
…あなたは俺の事を許してはくれないだろうな。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
許す…?
表田 裏道
表田 裏道
いや、何でもない。
そろそろこいつら起こして帰るか。


裏道さんは兎原をゆさゆさと揺すって起こしている。


まだどこか曇った表情が、とても辛そうに見える。





「許してくれない」とは何だ。


あなたさんと裏道さんの間に、何かあったのだろうか。


最近なのか、過去なのか…。








さすがにこれ以上聞くのは本当に野暮だ。




俺も詩乃さんを起こすとしよう。






兎原 跳吉
兎原 跳吉
面白く…なりてぇ…。
多田野 詩乃
多田野 詩乃
けっこ…ん…。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
欲の塊な寝言ですね。
表田 裏道
表田 裏道
だな。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
裏道さん。
表田 裏道
表田 裏道
なに?
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
あなたさん、もう用事終わってると思うので連絡したら教えてくれると思いますよ。
裏道さんが気になってる用事の事。
表田 裏道
表田 裏道
…そうか。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
家が近所なら直接聞きに行っても良いんじゃないですか。
表田 裏道
表田 裏道
それは流石に無理あるだろ。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
裏道さんが来ても嫌な顔はしないと思いますが。
表田 裏道
表田 裏道
根拠あるのか…。
つか何で家が近所って知ってるんだよ。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
前にあなたさんに住んでる場所聞いた時に、裏道さんの家と近所だなと思ったので。
あと根拠はないです。
表田 裏道
表田 裏道
熊谷らしいな。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
それはどうも。





ゆさゆさと酔っぱらい2人を起こしているが、詩乃さんはともかく兎原が起きる気配がない。


面倒だが、こいつは俺が引きずって帰るか。


詩乃さんはタクシーに乗せたら大丈夫だろう。









表田 裏道
表田 裏道
起きろ。
兎原 跳吉
兎原 跳吉
おもしろく…なり…いでッッッ!?!?


裏道さんがキレ気味に無理矢理兎原を起こした。


相変わらず裏道さんのデコピンはかなり痛そうだ。



多田野 詩乃
多田野 詩乃
あれ、今何時…?


兎原の大声で詩乃さんも起きた。



熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
詩乃さんはタクシーで帰ってください。
外も暗いですし。
多田野 詩乃
多田野 詩乃
ありがとー(泣)


まだ酔いが覚めてないのか。


少しテンションが高い。


熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
兎原、お前はそもそも歩けるのか。
兎原 跳吉
兎原 跳吉
裏道さんのデコピンで完全に酔い覚めたから歩ける…。
表田 裏道
表田 裏道
起こしてやったのに失礼だな。
兎原 跳吉
兎原 跳吉
スンマセンッッッッ!!
表田 裏道
表田 裏道
じゃあ解散するか。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
ですね。
多田野 詩乃
多田野 詩乃
そだねー!


会計を済ませて店の外に出る。


冬の冷たい風が痛いぐらいだ。


多田野 詩乃
多田野 詩乃
それじゃ私はこの辺で!
お疲れ様ー!
表田 裏道
表田 裏道
お疲れ様です。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
お疲れ様です。
兎原 跳吉
兎原 跳吉
また飲みましょうねー!


詩乃さんがタクシーに乗った所を見届けて、俺たちも解散する。


兎原と家が同じ方面なのがこういう時は面倒だ。


兎原 跳吉
兎原 跳吉
裏道さんもまた飲みましょうねー!
表田 裏道
表田 裏道
金欠を脱してから言ってくれ。
兎原 跳吉
兎原 跳吉
辛辣…(泣)
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
風邪引かないよう気を付けてくださいね。
表田 裏道
表田 裏道
2人もな。
気をつけて帰れよ。
兎原 跳吉
兎原 跳吉
はーい!
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
裏道さんもお気をつけて。
それじゃあ、失礼します。
表田 裏道
表田 裏道
お疲れ。


酒臭い兎原に絡まれながら、俺たち2人は帰路に着いた。






裏道さんは…この後どうするんだろう。




















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