第16話

15*素の自分(過去話)
390
2021/10/14 18:04






あの日からあなたの名字先輩を見掛けることはあっても、人だかりで声をかけようにもかけれない。





そもそも3年生で新体操のエースと1年生で弓道の俺とは、月とすっぽんというか、雲の上の人というか。


そう簡単には話せそうになかった。






そんな日々を過ごしていたら、夜になって寮の管理人さんがやってきた。


同級生の猫田は彼女の家に住むとか言って少し前に出ていったから、今は3人部屋に俺と兎原だけしかいない。


管理人さんは、東棟の寮を工事するから終わるまでの間、1人空いてる俺たちの部屋に入れてあげてほしいと伝えに来たらしい。


快諾すると、新しく同居人になる人物は思いもよらない人だった。








表田 裏道
表田 裏道
東棟から来ました、4年の表田裏道です。





あの、表田裏道だ。




あなたの名字先輩と同じく雲の上の存在だと思っていた人物は、今目の前にいる。



まさかこんな所で一緒になるとは。








兎原 跳吉
兎原 跳吉
1年の兎原跳吉っす!
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
1年の熊谷みつ夫です。



とりあえず自己紹介。



部屋に荷物を入れてもらい、学園のスターとの短い共同生活が始まった。






_________











兎原 跳吉
兎原 跳吉
……。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
……。
表田 裏道
表田 裏道
……。




会話が無い。


というか何を話せば良いのかわからない。


きっと兎原もそうだろう。


先輩、しかも学園のスターでエース相手には、あのヘラヘラした態度も出来ないだろう。









とりあえず、今日はもう休むか。





熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
俺、先休みますね。
兎原 跳吉
兎原 跳吉
お、おお。
表田 裏道
表田 裏道
お疲れ様。





猫田がいた頃とは全く違う3人部屋になったものだ。




けれど東棟の工事が終わるまでだから、短い期間しかいない。


そう気にしすぎることではないだろうと思いながら、俺は眠りについた。










___________


弓道場











梅雨も終わり、もう初夏だ。



にしても暑い。



半分屋内の練習場もかなり蒸し暑くなってきた。








もう練習を上がろうとしていた俺に、突然先輩たちが話しかけてきた。







モブ女子
モブ女子
熊谷くん、あの表田裏道と同室ってホント!?
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
はい。
でも一時的ですよ。
モブ男子
モブ男子
あの表田裏道と同室って、短期間でも羨ましいな!
やっぱ色んな話聞けるだろ!
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
いえ、特には。
モブ女子
モブ女子
てか、表田先輩格好いいよねー!
彼女とかいるんだろうなぁ。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
いないと言ってましたよ。
モブ女子
モブ女子
まじか!
モブ男子
モブ男子
まじで!?



前に兎原が聞いたらしく、先輩たち同様兎原も驚きを隠せないようだった。


ファンクラブがあるくらいの人なら、確かに彼女とかいても不思議じゃないが…なんかあの生活風景を見ると人に興味ない感じだからな。


きっと告白されてもスッパリ断っているのだろう。




モブ女子
モブ女子
彼女いないってことは、表田先輩とあなたの名字先輩って付き合ってなかったのかぁ。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
あなたの名字先輩…?
モブ女子
モブ女子
新体操の女神、あなたの名字あなた先輩だよ!
体操のエース、表田先輩と一緒で学園のスターでエースだし、同じ体育館でよく2人で自主練してるから付き合ってるって噂はずーっとあったのよー!


噂話なんだろうが、ここまで本人たちがいないところで話が飛躍してるとは。


有名人はつくづく大変だな。



モブ男子
モブ男子
てことは、あなたの名字先輩も彼氏いないってことか!
モブ女子
モブ女子
それはわかんないでしょー(笑)
他の人かもしれないし!


何か、盛り上がっている。


俺は練習道具を片付けてさっさと退散することにした。







あなたの名字先輩は、大丈夫だろうか。



あれから弓道場の周りでは見掛けていない。



嫌がらせが無くなった…とは言いきれないが、少し落ち着いたのだろうか。






寮へ帰る前に自販機で何か買おう。



暑くて喉が渇いたから、俺は近くの自販機に向かった。












誰かいる。




自販機の前でずっと立っているその人は、









あなたの名字先輩だった。










珍しく人だかりもなく一人。



自販機の前でぼーっとした様子だった。









熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
あなたの名字先輩。



声をかけたらハッとした様子で俺の方に視線が向いた。



(なまえ)
あなた
あ、熊谷くんだ。


そう言ってにこっと笑った先輩は、一人で自販機を見つめていた人とは思えないほど別人に見えた。



熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
お久しぶりです。
(なまえ)
あなた
ホントに久々だね!
前はありがとうございました!


ぺこりとお辞儀する先輩。


熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
気にしないでください。
大したことはしてませんから。
(なまえ)
あなた
またそう言う(笑)
あ、お礼出来てなかったよね。
ジュース奢りますよ!


たまに敬語が混じる、あの日と同じだ。


熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
良いですよ、気にしないでくださ
(なまえ)
あなた
だーーめ!

言葉を遮ってあなたの名字先輩は自販機の前で仁王立ちする。


威厳とかそういうの、無いな…むしろ可愛い仁王立ちだ。



熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
…じゃあ、お言葉に甘えて。
(なまえ)
あなた
それで良し!(笑)


またにぱっと笑う先輩。


本当に表情がコロコロと変わって、見ていて面白い。



(なまえ)
あなた
どのジュースにしますか?
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
じゃあこれで。


指差したのは特価価格の100円の炭酸ジュース。


奢られるなら出来る限り安いものにしておきたい。



(なまえ)
あなた
熊谷くん…。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
はい?
(なまえ)
あなた
遠慮してるでしょ!
絶対遠慮してる!


バレていた。



(なまえ)
あなた
お礼なんだからそんな遠慮しなくて良いの!
むしろ贅沢に「俺、2本欲しいです(ドヤッ)」ぐらい言って良いのよ!
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
いや、1本で良いですよ。
(なまえ)
あなた
それに熊谷くん、この炭酸じゃなくてこっちのジュースのが好きでしょ?


あなたの名字先輩が指差したのは、いつも俺が買っているジュース。

何故知ってるんだ…。


(なまえ)
あなた
何故知ってる!?って顔してますね(笑)
私もお礼をするのに何も考えてない奴じゃないですよ。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
はぁ…?
(なまえ)
あなた
表田先輩が東棟の工事の関係で、熊谷くんと同室になったと聞きました。
なので表田先輩に熊谷くんが好きそうな物を観察してきてとお願いしたんですよ!


いつの間にか観察されていたのか。


全然気付かなかった。


(なまえ)
あなた
そしたら、いつも同じジュースを買って帰ってると聞いたので!
これが好きなのかなぁと(笑)


そして好みのジュースを把握されていたとは。


(なまえ)
あなた
私がお礼したいって言ってるんだから、そういう時は遠慮とかしなくて良いんだよ。


先輩はそう言いながら、自販機に小銭を入れてリサーチ済みの俺が好きなジュースのボタンを押していた。



ガコンッ



自販機の取り出し口ジュースが落ちる。


先輩は取り出して俺に渡してきた。





俺は、








先輩の一つ一つの所作が美しすぎて見とれていた。










(なまえ)
あなた
熊谷くん?
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
あ、いえ。
ありがとうございます。


ジュースを受けとる。


練習終わりの暑い手に、ひんやりとした缶ジュースの冷たさが心地良い。




あなたの名字先輩も何か買っているみたいだ。



……え、青汁?





(なまえ)
あなた
あ!熊谷くんまでそんな顔する!
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
いえ、何と言うか…意外な選択だったので。


この自販機に何故ずっと青汁があるのか不思議だった。


買っている人を見たことがなかったから。


でも品替えされた時も青汁は残っていた。


どこに需要があるのだろうと思っていたのだが…。



(なまえ)
あなた
この青汁売ってる自販機、ここにしかないんだもん(笑)



需要はあったみたいだ。

しかもかなり常連らしい。


(なまえ)
あなた
立ってるのもあれだし、ベンチに座りましょー!


そう言ってご機嫌そうに近くのベンチに座るあなたの名字先輩。


(なまえ)
あなた
熊谷くーん!
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
あ、はい。
(なまえ)
あなた
ほれほれ!


ここに座れと言うことだろうか。


ベンチをべしべしと叩いている。


熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
…失礼します。
(なまえ)
あなた
そんなにかしこまらなくていいのに(笑)
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
先輩ですので。
(なまえ)
あなた
私は新体操で熊谷くんは弓道なんだし、そんな気にしなくて良いよ(笑)
それに私、あんまり上下関係厳しすぎるの好きじゃないし。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
そうなんですか。
(なまえ)
あなた
うん。
新体操の先輩とかにはちゃんとするけどね(笑)
それ以外は特に気にしてないし、私も後輩ちゃんと話してても敬語とか混じっちゃうし。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
確かに最初会った時も今も、敬語混じってますよね。
(なまえ)
あなた
でしょ(笑)
不器用だから上手く使い分けれないの。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
…意外です。
(なまえ)
あなた
青汁?
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
いえ、あなたの名字先輩から不器用なんて言葉を聞くのが意外で。


成績優秀で人当たりも良いこの人からの意外な言葉に素直に驚いた。


何でもそつなくこなす、器用な人だと思っていたから。


(なまえ)
あなた
私はそんな完璧な奴じゃないですよ。
むしろ色々と欠落してるからビックリもされるし(笑)
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
そうなんですか。
(なまえ)
あなた
うん(笑)
大会の成績とか見られると、真面目だとか天才だとか言ってくれる人もいるけどそんなんじゃないし。
(なまえ)
あなた
私自身は超変な奴って思ってる(笑)
青汁飲んでるとことかそうじゃない?
なかなかこの年で好きな缶ジュースが青汁な女子も少ないでしょ(笑)
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
いや、きっとあなたの名字先輩の年の方でも青汁好きな人はいると思いますが…。
(なまえ)
あなた
きっとごく稀だよね!
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
まぁ…なかなか見掛けませんが。
(なまえ)
あなた
それにお洒落とかにも興味ないし、芸能ニュースとかアイドルも全く知らないの。
ドラマもそんなに見ないし…というか毎週見続けられない!
だから皆の話についていけてない事の方が多いんですよ(笑)
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
…意外です。
(なまえ)
あなた
エースとか言ってくれてる人には申し訳ないです。
演技とイメージが違うからガッカリしたって人もいましたし。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
いたんですか。
(なまえ)
あなた
いるよ(笑)
「あなたの名字さんがそんな人だとは知りませんでした。演技やイメージとは違いすぎてガッカリしました。」って。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
それは…。



あんまりだと思う。


その人の一方的な憧れやイメージをあなたの名字先輩に抱くのは良いけれど、それを本人に押し付けたり違うからとガッカリしたなんて言葉を言うのはひどすぎる。


確かに話をしていると、噂で聞いていたイメージとは全く違う。


でも、それがあなたの名字先輩という人なんだ。


それを否定するのはあんまりだ。



(なまえ)
あなた
熊谷くんはガッカリしましたか?



突然あなたの名字先輩は真面目な声で俺に問いかけてきた。



ガッカリなんて、していない。



確かに見た目の綺麗さと飲み物のギャップはあるけれど…。



熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
ガッカリなんてしませんよ。
むしろ安心しました。
(なまえ)
あなた
安心…?


きょとんとするあなたの名字先輩。


ホントに表情がコロコロ変わる人だ。



熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
噂話であなたの名字先輩の話を聞かない日はありません。
けれど前会った時も今も、あなたの名字先輩がとても人間らしくて安心したんです。
人から聞く話だと、エースでスターだとか女神だとか…どこか完璧過ぎるあなたの名字先輩の話をしていたので。
(なまえ)
あなた
そんな風に言われてるんですか(笑)
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
自分の聞く限りですが。
(なまえ)
あなた
なんか申し訳ないですね…。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
そんな事は思わなくて良いと思います。
あなたの名字先輩が悩んだり笑ったり、ちょっと珍しい好みをしているのも、素の先輩も、人らしくて俺は好きです。
(なまえ)
あなた
人らしい私が好き…。



しまった。


好きってそういう意味じゃない。


人間的な意味だ。



熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
あの、今の好きは人としての…
(なまえ)
あなた
そう言ってくれる人はこの学校にいて2人目です!
嬉しいなぁ。



にぱっとあなたの名字先輩が笑う。


変な捉え方はされていないみたいで安心した。





けど、3年も学校にいるのに俺で2人目…。



熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
もう1人は…コーチの人とかですか?
(なまえ)
あなた
まさか!(笑)
コーチはそんな事言わないよ。


誰だろう。


素のあなたの名字先輩を良いと言う人。



(なまえ)
あなた
気になる?


ずいっとあなたの名字先輩が俺の顔を覗き込む。


近くで見ると本当に美人だな…。



熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
まぁ少し…。


少し距離を取る。


さすがに良い意味で心臓に悪い。


(なまえ)
あなた
きっと熊谷くんならわかりますよ。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
俺なら…?
(なまえ)
あなた
はい!
熊谷くんは洞察力も良いですし、きっとすぐわかりますよ!



そう言って缶の青汁を飲み干すあなたの名字先輩。



(なまえ)
あなた
ぷはっ!
やっぱりコレが一番!


またにぱっと笑う。


(なまえ)
あなた
それじゃ、私はそろそろ練習に戻りますね!


すくっと立ち上がり眩しい程の笑顔で振り返ったあなたの名字先輩は、本当に綺麗で可愛かった。



熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
ジュース、ご馳走さまでした。
(なまえ)
あなた
いえいえ!
むしろお礼が遅くなってごめんなさい。
本当にあの時は助かりました!
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
いえ…



あの時……。



そうだ、あの日以来あなたの名字先輩は嫌がらせをされていないか聞きたかったんだ。



熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
あの、聞いても良いですか。
(なまえ)
あなた
何ですか?



こんなに笑ってる人に聞くのは心が痛い。


けど、心配だ。


今日話をしてくれたあなたの名字先輩を目の前にすると、あの時より不安になる。










熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
あの日から、また何か無くなったりしてませんか…?




あなたの名字先輩の表情が少し曇った。




やっぱりまだ続いているのか…。




(なまえ)
あなた
大したことではないですよ。


気丈に振る舞ってくれているのだろうか。



さっきとは違う、無理に作った笑顔が痛々しかった。




熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
でも、あなたの名字先輩はこのままで良いんですか。


いらない、余計なお節介だと思う。


だけど理不尽に嫌がらせをされて、またあの日のように一人で何か探したりしている辛そうなあなたの名字先輩をもう見たくなかった。


この人には笑顔が似合うと思ったから。




(なまえ)
あなた
私は3年生で、ある程度の事は我慢出来るので。
それに練習には支障は無いので大丈夫ですよ。


諦めたような、悲しい作り笑いをするあなたの名字先輩。





俺に何が出来るのか、いや、何も出来ない。



学年も違えば種目も違う。



本当に独りよがりなお節介をしているだけなんだ。






返す言葉が見つからずに黙っている俺に、あなたの名字先輩は笑ってくれた。


優しく笑っていた。





(なまえ)
あなた
熊谷くんがそこまで気にすることではないです。
それに、さっき私の話を聞いてくれて嬉しかったです。
素のままの私で良いと言ってくれてるような感じがして本当に嬉しかった。


どうしてそんな優しい言葉が出てくるのだろうか。


理不尽な思いをし続けて辛い筈なのに、相手を責めたりする言葉も言わない。

不満も言わない。







もしかしてあなたの名字先輩は、全てを一人で背負っているのか…?



大会の成績に対する周囲からの期待やプレッシャーも、噂話をされている事も、嫌がらせを受けていることも。



誰にも言わず、抱えているのか…?






そんなのは、













熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
あんまりですよ…。
(なまえ)
あなた
え…?
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
あなたの名字先輩が何もかも一人で背負うのは、違うと思います。
(なまえ)
あなた
……。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
何か俺に出来ることがあったら
表田 裏道
表田 裏道
あなたの名字。


俺の言葉を遮ったのは、







あなたの名字先輩と同じ、学校のスターでエースで俺と同室になった



















表田裏道だった。









(なまえ)
あなた
表田先輩。
表田 裏道
表田 裏道
コーチが呼んでたぞ。
あと皆探してた。
(なまえ)
あなた
え!?
ホントですか!?
表田 裏道
表田 裏道
俺があなたの名字に嘘ついて得なんかしないけど。
(なまえ)
あなた
ですよねぇぇ!(笑)
呼びに来てくれてありがとうございます!



くるっと俺の方を向いたあなたの名字先輩。



(なまえ)
あなた
また会ったらお話ししようね、熊谷くん!
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
あ、はい。
(なまえ)
あなた
じゃあ私はコーチに怒られるのが怖いので練習に戻りますッッ!!
表田 裏道
表田 裏道
俺は休憩だから、後で戻るわ。
(なまえ)
あなた
承知しました!
ではでは熊谷くん、またね!


そう言ってあなたの名字先輩は風のように走って行ってしまった。


足速いな…。





そして自販機前のベンチに残されたのは、俺と同室になった表田裏道…さん。



部屋でもあまり会話しないから、案の定この場でも沈黙が生まれる。





何て言うべきだ…?


それじゃあ俺も失礼しますで良いのか…?





この人の表情はぶっちゃけ読めない。


何考えてるのかもわからない。


同じエースでもあなたの名字先輩とは真逆だ。





そして俺は、






この人が苦手だ。













表田 裏道
表田 裏道
あなたの名字、何か言ってたか。



沈黙を破ったのは表田先輩だった。



熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
好きな飲み物の話とかを。
表田 裏道
表田 裏道
…そうか。


嘘はついていない。


ただこの人があなたの名字先輩が嫌がらせを受けていると知っているのかわからない。


だから余計なことは言わない方が良いと思った。



表田 裏道
表田 裏道
えーっと、くま……くま…
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
熊谷です。
表田 裏道
表田 裏道
…熊谷。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
はい。



何だこの人は。


同室の名前も覚えていないのか…。


そこそこの期間は一緒に生活してるのに。




表田 裏道
表田 裏道
俺が卒業したら、あなたの名字のことよろしくな。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
……え?


何を言ってるんだこの人は。


意味が全くわからない。



表田 裏道
表田 裏道
あいつ、意外と不器用だから。
さっき熊谷と話してるの見てたけど、久々に楽しそうにしてたから安心した。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
はぁ…。



見てたのか。


いつから見てたんだ…。




表田 裏道
表田 裏道
何でも自分で背負い込む奴だし周りに相談とか愚痴とか言わない奴だから、たまに話し相手になってやって。
その方があなたの名字の為でもあるから。




この人は、






あなたの名字先輩が不器用なのを知っている。


何もかもを一人で背負い込んでることも知っている。














「きっと熊谷くんならわかりますよ。」
















あなたの名字先輩が言っていた、




素の自分を好きだと、それで良いと





唯一言ってくれた人は、




















表田 裏道
表田 裏道
じゃあ俺も練習戻るから。
気を付けて帰れよ。
熊谷 みつ夫
熊谷 みつ夫
…はい。






















きっとこの人だ。












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