「白峰せんぱーい。この書類お願いします!」
その声にぴくりとこめかみを動かしてからゆっくり振り向く。
くねくね動くな気持ち悪い
可愛いと思ってんのか?
「え?それ、田中ちゃんの仕事だよね?」
なんて心で思ってることは出さずに、にこりと笑顔で返す。
「んー、今日~。彼氏とぉデートなんです!どうせ、白峰先輩暇でしょ?お願いしますよぉ!」
何こいつ…
仕事あるときにデートいれる?普通
つか、誰がするかよ
「私も暇じゃないの。」
「なっ…!!課長に言ってやりますからね!!」
べーと舌を出しながら、去っていった田中は別の獲物を見つけたかのように新しい地味そうな子に近づいていく。
いらないな~…
あんな子
消そうかな…
「白峰さん大丈夫?」
「あの子、課長とできてるって噂だけど…」
「え?そうなの?」
へ~。
面白いこと聞いた
「大丈夫大丈夫。負けないから」
「??」
きょとんと首を傾げている同僚にもう一度、笑いかけパソコンのモニターに目を移した。
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今日がデートだってことはー。
後つければいいんだよね
イザナに今日の集会遅れるって電話したらガチギレられた。「お前なめてんの?」って言われたからさ、こっちもキレて電話で大喧嘩よ。
あちゃー
今日、集会行くのダルいな…
殴り合いの喧嘩になったら面倒だし
じゃあ、しなきゃいいじゃんって?
ばっか、そしたら私が負けたみたいじゃん
「お、来た」
堂々と会社の後にラブホかよ。
頭ん中、それしかねぇのか?
ハゲ課長とウザい後輩
どっちも落としてやる。そんで、私の言いなりになればいい。
カシャッ
静かな路地裏に鳴り響くシャッター音。それに気づいた二人はこちらに視線をやり大きく目を見開かせた。
「あれ?課長と田中ちゃんじゃないですか。こんなところで何してるんです?」
上げていたスマホをから顔を覗かせにこりと笑う。
「お、お前っ!何でこんなところに……!!」
「私は知り合いと待ち合わせですよ。そう言えば、ここラブホテル…の前ですね?たしか課長、結婚してませんでしたっけ?」
「っ…!!?」
「ちょっと~、白峰せんぱーい。私のパパ誰か知らないんですか~?」
課長をかばうように前に出てくるクソウザい後輩ちゃん。
「社長だよね?だから?」
「は?いやいや、パパに頼めばあんたなんか消せるんだよ?」
「そう…確かに、私はあなたのお父さんには勝てないね。でも……」
勝ち誇ったような笑みを浮かべる二人に近づき、ガンッと二人の後ろにある塀に足をつく。
俗に言う股ドンだ。全くキュンキュンしないが。
青ざめる二人を見て眼鏡を外した。
「死体になりゃあ、関係ないわな?」
「あ、あんた!私にそんな口聞いていいと思ってるの?!!」
「そりゃ、こっちの台詞。あんたらなんか、こっちはどうとでもできんだよ。なんなら…」
カチャリ
「今、ここで殺してやろうか~?」
「ひっ……!」
「な、なんでっ…そんなもの…!」
震える二人を見据えて、くるりと反転して背を向ける。
「あはっ…!私、普通じゃないの。何人も殺したことあるんだ~。だーかーらー」
もう一度、回って今度はずいっと二人に顔を近づけた。
「あんたら殺すことくらい、どうってことないの」
ガタガタと尋常じゃないほど震える二人。後輩ちゃんなんて泣いてるし、部長も半泣きだよ?
ウケる
「今まで散々こき使ってくれて?雑用もどれだけ押し付けられたか…。正直、何度あんたのこと殺そうと思ったかわかんないくらいだわ。ま、私やさしいから?見逃してやるけど、分かってるよな?今後、私に逆らうなよ?」
「わ、わかりました…」
カツン…
「あれ~?あなたじゃん。」
「ほんとだ。あなた、もう集会だぞ」
「らんらん、りんりん。こんばんわ~」
「うん。聞いてないな」
へらりと笑って見せればらんらんに頭を小突かれた。りんりんはため息ついたぞ。
私の頭を撫でていたらんらんがちらりと視線をずらす。目があった二人は大袈裟とも言えるほどビクリと体を震わせた。まぁ、灰谷兄弟ってルックスもいいから目立つしね。横浜の大体が知ってるかも。
「誰?こいつら」
「んー?課長と後輩」
「あぁ、あなたがずっと殺したいって言ってた奴ね。何?殺るの?」
「いーや。使えると思って。」
「うわ…ひでぇ」
何よ~りんりん。そんなに嫌そうな顔しなくてもいいでしょう?
「あなた、行くぞ」
「そーそー。大将怒ってんの。どうにかしてよ」
「いや、私が行ったら悪化するけど?今日はたぶん酷いよ?さっき電話で喧嘩したから」
「げ…」
「やっぱ来ないで?」
「ひどいな~!そこまで言われると行きたくなってきた。今日こそ鶴蝶に止められる前に潰す…!」
「やめろ」
らんらんにマジレスで返された…
年下のくせにひどい奴だ
その後?
イザナとやりあいました
鶴蝶に止められたから決着つかなかったけど!
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!