「あなたちゃん。ここが今日からあなたが住むところよ」
警察官に連れられ、横浜にある施設の前に来ていた。
母親が死んだ今、私を育ててくれる人は誰もいないから。
施設の人と警察官が話しているのを耳で流しながら、きょろりと辺りを見渡した。
小さな施設に、たくさんの子供がいる。
私より小さい子たちの方が圧倒的に多かった
万太郎と圭みたい……
年はたぶんあの二人と同じくらいだろう
男の子同士が喧嘩しあってる
そんな二人を見て、少しだけ笑う
施設の人と警察官がそんな私を見て安心したように目を合わせていたことに気づかなかった。
施設に来てからは知らないことばかりで、自分がいかに普通に育てられていなかったかが分かった。
母親が殺されたとき、聞き込みなどをしていて分かった一つの事実。母親が娘に虐待をしていたこと。
世間というのは残酷で、それが分かった瞬間ころりと態度を変えた。
私は虐待されていた可哀想な子
母親は死んで当然な人
「馬鹿みたい」
結局みんな他人の家庭にはそんなもんだ
私が施設に来てから数週間後。
新しい子が来た
名前は黒川イザナ
褐色肌に銀色の髪が綺麗だと思った
何処か人と違う
ちょっと怖い空気を纏っていた彼に誰も近づかなかった
ただ、私を除いて
「ねぇ、捨てられたの?」
我ながら初対面から最低な奴だ
いつも隅の方に一人でいたイザナは、寂しそうにしていた訳じゃない。私が話しかけたときも何だこいつみたいな目で見られた。
「私さ。母親が死んでさ、ここに来たんだけど。あんたも親いないの?」
「………」
「口ついてるんだから、うんとかすんとか言ったらどうなの?」
「……」
「てかね、本当は私が母親殺したんだよね」
「は……?」
「あー、喋った。」
イザナの声を初めて聞いた瞬間がそれ。
「嘘かよ……」
「いや、嘘じゃないよ。でも内緒ねこれ。私逮捕されちゃうから~。」
「何で…」
「…何で殺したかって?あの人…母親じゃなかったんだよね。いや血は繋がってるし、正真正銘あの人から産まれたわけだけど。私、あいつに虐待されてたんだよね。私のことまともに育てなかった。まともに育ててたらまだ中学生のガキが殺しなんかしないよね~、まして自分の母親を。」
「……俺…」
「ん?」
「母さんに捨てられたって分かってる……。」
「んー…、親って結局勝手なんだよね。自分が産んだくせに愛せなくなったら虐待したり、捨てたり。私たち子供は母親選べないから、自分の運命恨むしかないわけだけど。あんたも、いつまでも落ち込んでるなよ。どうせ、もう迎えになんて来ないんでしょう?」
いや……私、マジ最低な奴
これ、イザナじゃなかったらギャン泣きされるわ。
そんなわけで。
何故かその日以降、イザナは私だけに話すようになった。施設の人とも他の子供たちとも話さないくせに。
うーん……
未だに分からない。
イザナが私に懐いた理由
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。